けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

渋滞学

ここのところ読書ペースが落ちてしまい、この日乗も月1以下になってしまった。これでは月乗である。たまに訪れていただく方には申し訳なく思う。 本を読んでいないわけではないのだが、紹介したいと思うものが少ないということだ。 2007年の最初の1冊は「渋…

ラギッド・ガール

待望の「廃園の天使」シリーズ第2巻である。SFマガジンで発表済みの中編に加え、新作書き下ろしの1編を含む中編集だ。 熱心なファンはきっとSFMで読んでたんだろうな、と思いつつ、最近ではSFMを本屋でみかけることがあまりない、というか真面目に探さない…

極北の動物誌

今は亡き星野道夫が自らの原点と語った本である。著者はウィリアム・プルーイット。かつてアラスカに核実験場を作ろうとする計画が持ち上がった時、それがタイガの生態系に及ぼす影響を調査し、計画の中止を求める報告書を上申したことが原因で大学を追われ…

海底牧場

大学3年のゼミ説明会の時だ。説明を終えた教授が「質問はないか」と尋ねた。ある学生が「先生の宗教観は?」ときいた。教授はすぐに「特定の宗教を信心しているということはありません。まぁ、強いて言えばアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』のよう…

12番目のカード

お待ちかねのリンカーン・ライム・シリーズ最新刊である。ジェフリー・ディーヴァーには、短編集「クリスマス・プレゼント」で奇襲攻撃を受けまくったので、かなり気合いを入れて読んだ。その期待は裏切られなかった。ハーレム在住の女学生を襲った事件と、1…

天涯の砦

小川一水といえば、ここのところ星雲賞の長編(「第六大陸」)、短編(「老ヴォールの惑星」)をあいついで受賞し、すっかり若手SF作家としての評価が定着したように見える。一ファンとしては喜ばしいことだと思う。その最新作の「天涯の砦」を読んだ。 日本…

萌える男

「萌え」という言葉がすっかり定着してしまい「なんだかね・・」と思っている方も多いだろう。 まぁ、言葉遊びはマスコミにまかせておけばよいが、ヲタクおやじである亭主は「萌え」に関しては実に複雑な心境を持っていることを認めねばならない。この本は亭…

Nobさんの飛行機グラフィティ

航空機ファンでNobさんこと下田画伯の名を知らない者はいないだろう。それほどNobさんの画風はユニークだ。亭主はいわゆる「三等身メカ」の元祖こそNobさんであると思っているが、その真偽は置くとして、少なくとも亭主が航空雑誌を読み出した1970年代前半に…

昆虫−驚異の微小脳

この本は凄い。昆虫の知覚についてこんなに詳しく分かっていたのか!とショックを受ける。著者は「微小脳」というコンセプトの提唱者の一人。昆虫の脳・神経系に関する第一線の研究者である。本物の専門家が書いているので、いくら一般向けとはいってもかな…

麺の文化史

永らく絶版になっていた、石毛直道「文化麺類学ことはじめ」が、講談社学術文庫から「麺の文化史」として改訂再版された。麺の発祥、伝搬、地域性等について全世界的に網羅した労作である。著者は民族学者であり、本来食品の専門家ではないというが、豊富な…

図書館の小説

1ヶ月以上更新をさぼってしまった。別に夏休みというわけではないのだが。 そこで、夏休みといえば図書館である。(笑) 有川浩の「図書館戦争」を読んだ。著者は「電撃」出身。 メディアの検閲が合法化された日本で、図書館の自主独立を守るために結成され…

遊学

亭主が松岡正剛氏の名を知ったのは「遊」という雑誌を手にした時が最初であったと思う。当時は大学の3年くらいではなかったか。なんだか難しいことが書いてあるが、格好がよい本だ、と思った。それが伝説の雑誌であることを知るのは、ずいぶん後になってから…

遙かなるケンブリッジ

「国家の品格」ですっかり有名になった藤原正彦教授の初期のエッセイである。「若き数学者・・・」は著者がエッセイストとして世に出た第一作といってよい。著者の最初の留学体験を綴ったもので、海外留学の体験談として楽しめるし、ポスドクの若手研究者の…

花情曲

皇なつきは上手い。本当に上手い。絵だけで酔わせてくれる数少ない漫画家だと思う。彼女の個人的な情報はほとんど知らないが、中国絵画、特に近代の水墨画に関心を寄せていることは窺い知れる。さすがに筆書きではないが、水墨画の素描を思わせるタッチは、…

剱岳-点の記-

この本のサブタイトルを見てピンときたら、あなたは地図マニアだ。 新田次郎の手になるこの作品は、山岳小説の傑作であるとともに、非常に珍しい地形測量をテーマにした小説でもある。サブタイトルの「点の記」とは、三角点を設置する際に作成される記録のこ…

うつうつひでお日記

あじま(吾妻ひでお)大先生の「失踪日記」を描いている頃の日記(?)である。また作品が読めることがなによりもうれしい。もちろん、失踪からお戻りになって、ちゃんと仕事もされていたので、正しいファンの人たちはちゃんとチェックしてたでしょうが、亭…

暗号関係の本

暗号と数学の関係はとても深い。現在の情報通信や個人認証などで広く利用されている「公開鍵暗号」システムは、その理論的な根拠も強度の程度も全て数学によって説明できる。この方式は1977年にリベスト、シャミア、アデルマンの3人により発表されたRSA暗号…

フェルマーの最終定理

大分古い本だが、最近文庫版が出た。ワイルズの証明がハイライトであるのはもちろんだが、ピュタゴラスに始まる数論の歴史をわかりやすく紹介しており、数学史の読み物としても優れている。数式のそれなりに出てくるが、基本的には四則演算なので亭主にも理…

ペトロス伯父と「ゴールドバッハ予想」

この本は実話ではない。しかし、「ゴールドバッハの予想」は実在する数学の問題で、予想が提示されてから約250年間たった今日でもまだ証明されていない。「2より大きい偶数は2つの素数の和である」 これが「ゴールドバッハの予想」だ。この問題は数学の中…

ブラックホールは怖くない?

ブラックホールの入門書。大変わかりやすくて良くまとまっている。 著者は現役の研究者で、降着円盤の研究では日本有数の実績を持つ。なによりもこの先生、SFやアニメ大好きの人(要するに亭主のお友達系)なので、SFファンが知りたいと思う点がちゃんと説明…

グラン・ヴァカンス

飛浩隆の長編。「廃園の天使」シリーズ第1作。といっても第2作以降は未刊だ。 読んだのは大分前だが、久々に読み応えのあるSFだと思った。 登場人物(?)はヴァーチャルスペースに構築されたリゾート地に住んでいるAI達。彼らはヴァーチャルリゾートを訪れ…

象られた力

飛浩隆の短編集が2005年度SF大賞である。 この作品集は美しい。そして凄惨である。 短編とはいえ、冒頭から最後の一語まで刃のような緊張感を維持しつつ、決して飽きさせることのない文章力は驚くべきものだ。緻密でありながら、どこかが決定的に日常とずれ…

これから読む本

都内某所で複雑ネットワークのお話を拝聴した。量子力学のBose-Einstein Condensationを複雑ネットワークの生成にあてはめて解析するというアプローチがあるのだそうで、大変興味深い。また、量子力学とは直接関係ないがスモールワールド・ネットワークも非…

樹上のゆりかご

荻原規子の名作が新書版で再版。「西の善き魔女」のTVアニメ化でちょっと盛り上がっているおかげである。もっともカバーはすっかりライトノベル調になってしまったが。この作品は数ある荻原作品の中でも亭主のお気に入りの一冊だ。著者の出身高校がモデルに…

ウェブ進化論

最近はやりの「WEB2.0」関連の本。 はっきりいってあまり関心がなかったのだが、とある事情で読まざるをえなくなった。 読んでみて、思っていたよりまともな内容だったので、ちょっと感心。著者は亭主と同い年。しかもおそらく中学も高校も大学も同じ。名前…

架空の王国

「ムジカ・マキーナ」で名高い高野史緒の幻の作品が復刻された。 「復刊ドットコム」の活動により実現したものだ。 西洋史の研究者を目指す女子学生が、留学先のヨーロッパの小王国で数奇な事件に巻き込まれるお話。著者の言葉を借りれば「主人公との距離が…

ヒストリアン

”図書館小説”というジャンルがあるとすれば、この作品や上記の「架空の王国」はまさにそれではないだろうか。ややサスペンス色が濃いせいか、書店では「ダヴィンチ・コード」と並んで平積みされていることが多いが、特に関連はない。登場人物がほとんど歴史…