けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

祝復刊! シャドー81

1975年に発表された航空サスペンスの傑作が久々に復刊された。1977年に新潮社から文庫で発売されたこの作品は、当時の海外ミステリイとしては記録的な販売部数を達成したという。航空サスペンスともミステリイとも呼ぶことはできるが、この作品はそうしたジ…

バイバイ、マイクル

またしても巨星の訃報である。 亭主がマイクル・クライトンの「アンドロメダ病原体」を初めて読んだのは中学生の時。世の中にはこんな緻密なSFを書ける人がいるんだ、と感動し大きな影響を受けた。環境に適応しつつ次々と性質を変える謎の病原体を追い詰め…

貧民の帝都

鮫ヶ橋、万年町、新網町、新宿南町。 この町の名をみて、東京四大スラムとわかるなら、かなりの東京通であろう。 江戸非人頭の評伝を著している塩見鮮一郎が「東京養育院」の誕生から消滅にいたる軌跡を様々な史料に基づき丁寧に追いかけたのが本書。これは…

詩羽のいる街

山本弘の最新刊を読んだ。「詩羽(しいは)」はこの作品のヒロインの名前。おそろしく賢いことは間違いないが、決して超能力者でも異世界の住人でもない。まったく当たり前の女の子だ。彼女の仕事は「人に親切にすること」。 何しろ山本弘である。「またまた…

蒼路の旅人・天と地の守り人(三部作)

全巻を軽装版で揃えるつもりでいた「守り人・旅人シリーズ」だが、「蒼路の旅人」を読んだところでとうとう我慢できなくなり、ハードカバーに手を出してしまった。亭主と同じ羽目に陥った方は少なくなかろう。「蒼路の旅人」と「天と地の守り人」それぞれ独…

ショコラティエの勲章

著者の上田早夕里は小松左京賞受賞のSF作家だが、この作品は(敢えて分類すれば)ミステリイだ。 神戸の老舗和菓子店に勤める主人公の女性と、名人ショコラティエの交流を軸に6編の物語が綴られている。ミステリとはいっても、殺人事件もなければ驚くような…

はやぶさ−不死身の探査機と宇宙研の物語

もうかなり前に読んだ本だが、書こうと思いつつ機会を逸していた。 「はやぶさ」とは、JAXA/ISASが小惑星イトカワに送り込んだ探査機MUSES-Cのことであることは言うまでもない。この探査機についてはすでに多くの文献やサイトが詳細な情報を提供しているので…

追悼! アーサー・C・クラーク

その訃報に接したのは今日の正午のニュースだった。 「アーサー・C・クラーク氏死去」 この日が遠からず訪れるであろうことは、分かっていた。しかし、やはりショックである。 月並みではあるが、「巨星、逝く」という言葉がこれ程ふさわしい人物はいない。…

勇将の装い

黒澤明監督による「影武者」を初めて観た時、あまりにもカッコいいデザインの甲冑が登場して、驚かされたものだ。特に作中で信長が所用していた、西洋甲冑をベースにしつらえたと思われる南蛮具足の印象は強烈で、亭主が甲冑のデザインについて興味を持ち始…

シュレディンガーのチョコパフェ

山本弘の短編集「まだ見ぬ冬の悲しみも」の改題再刊である。 やっと読めた。面白い。 山本弘と言えば「と学会」。その活動(?)によって通暁した「とんでもネタ」を総動員して書かれた「神は沈黙せず」は、亭主のお気に入りだ。 本作品集にも、その該博な知…

神の守り人

またも上橋菜穂子である。まぁ、好きなんだから仕方がない。 待望の軽装版「神の守り人」が発売された。買ったとたんに読んでしまったが、改めて上橋の実力を思い知らされた。 主人公であるバルサが背負う宿命、もう一人の主人公であるアスラが背負う宿命、…

秒速5センチメートル

新海誠の最新アニメーション作品「秒速5センチメートル」。この作品を新海自身がノベライズした小説版「秒速5センチメートル」が出版された。 新海誠が「ほしのこえ」で一躍有名になったのは、2002年のこと。石原都知事を含め、世間一般の異様な反響にとまど…

かけがえのない地球 365日空の旅

年末に親友達と会ったおり「持続可能性」すなわち「sustainability」という概念が話題になった。 この概念については様々な議論があり、その詳細を述べる知識は亭主には無いが、これからの社会システムを考えてゆくためには避けて通れないものだと理解してい…

有頂天家族

森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」(d:id:mhana:20070204を参照)が第20回山本周五郎賞だそうだ。めでたいことだ。亭主はこの賞がどれほど有り難いものかは知らぬが、きっと森見氏の原稿単価アップにつながるであろうし、出版社の待遇も良くなるのだろう…

図書館革命

有川浩の「図書隊シリーズ」完結編である。 前作で見せた熱血さは、ややトーンダウンしているが、これは主人公笠原郁の心境の変化を反映しているのだろう。その分、郁と堂上の関係の変化に重きが置かれている。一言で言えば、完結編らしく、きれいにまとめた…

遠まわりする雛

米澤穂信の「古典部シリーズ」最新刊である。野生時代などに掲載された短編に、書き下ろしの表題作を加えた作品集になっている。 ミステリイの紹介は難しい。下手を書けばネタバレになってしまうし、かといって「面白いから読め」ではいくらなんでも愛想がな…

エアボーンとスカイブレイカー

数奇な運命に翻弄される少年と少女、巨大な飛行船、空賊・・・とくれば、誰しも思い出すのは、あの大カントクの「天空の● ラ●ュタ」であろう。この組み合わせは日本に限らず海外でも結構受けるらしく、カナダ在住の作家ケネス・オッベルのファンタジー「エア…

獣の奏者

この上橋菜穂子のファンタジーが何やらのランキングで1位になったようだ。結構なことだ。いわゆる幻獣、神獣の類はファンタジーにかかせないが、その生態を物語の中核に据えた作品はそれほど多くないと思う。「獣の奏者」はそういう希有な作品だ。 闘蛇とい…

水惑星年代記

暑い毎日が続いている。そのせいかメディアに「地球温暖化」という言葉が上らない日はない。亭主には「地球温暖化」なる現象の正体を論じるための知識も情報収集力もないので、この話題については「わからない」とはっきり言うことにしている。ただし、近年…

クリエイティブ・クラスの世紀

リチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス」に関する三冊目(亭主が知る限り)の著作"The Flight of The Creative Class"の邦訳。同僚から都市社会学の研究者の間で話題になっていると教えてもらったので読んでみた。 表題にある「クリエイティブ・ク…

鯨の王

1998年だからもう10年近く前のことになるが、ボストンでホエールウォッチングに参加する機会があった。ボストンの港から1時間以上走って外海に出るとザトウクジラ(humpback whale)の群れに出会える。運が良ければ間近にブリーチング(背面跳びのように大き…

玻璃の天

「街の灯」に続く、北村薫の「ベッキーさん」シリーズ中編集だ。前作では「わたし」こと花村英子のボディガード兼運転手であるベッキーさんの水際だった格好良さと、その謎めいた有り様がストーリーをひっぱっていたが、本作品ではベッキーさんの秘められた…

算法少女

1974年にサンケイ児童文学賞を受賞し、数学教育の関係者から熱烈な支持を受けながらも永らく絶版となっていた幻の作品が、ちくま学芸文庫によって復刻された。亭主は昨年この本の存在を知ったが入手不可能ということであきらめていたところ、偶然にも書店に…

中世賤民の宇宙

昨年逝去した阿部謹也の著作集である。阿部の著作としてはなんと言っても「ハーメルンの笛吹き男」が有名であり、亭主の認識もその程度だったが、どちらかというと読み物的な「ハメールン・・・」とは異なり、この著作集は著者の中世に対する学術的洞察が中…

精霊の守り人

上橋菜穂子という作家を亭主は最近まで知らなかった。この不明には恥じ入るばかりだが、荻原規子と双璧をなす日本ファンタジー界のエースが、荻原と同じく亭主とほぼ同年代だという。 この作品は児童文学として数多くの賞を受賞し、外伝を含めて10冊が刊行さ…

これは王国のかぎ

いまさらながら、荻原規子の「これは王国のかぎ」である。 実は荻原の長編作品の中でこれだけが未読だったのだ。主人公「上田ひろみ」は別の長編「樹上のゆりかご」にも登場するのだが、こちらを先に読んでしまったので、ずっと気になっていた。もっとも、こ…

走れメロス

もう1ヶ月以上たってしまったが、森見登美彦の最新刊は、近代文学のリミックスである。 もっとも「小説NON」に連載された作品を収録したものなので、本書が出る前にすでに読んでいた人も多いだろう。 「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下…

図書館危機

以前、とりあげた有川浩の「図書館」シリーズ第三弾である。 今回のストーリーはどちらかといえば直球勝負の熱血物語である。人様がどう評価するかは別として、亭主はこういうお話は結構好きである。何と言ってもわかりやすいし、ちゃんとツボで泣かせてくれ…

アンビエント・ファインダビリティ

著者のPeter Morvilleは、WEBサイトの情報アーキテクチャについての著作が有名であるが、この本は彼の発想の基本を綴ったものである。技術書ではないし、学術書とも違うので、エッセーと呼ぶしかないだろう。 興味深いのは著者のバックグラウンドがライブラ…

夜は短し歩けよ乙女

何でも、この本がTV等で取り上げられているらしい。結構なことである。 亭主が森見登美彦の作品を読んだのは「太陽の塔」が最初。もう何年も前のことだ。この人は「お友だち」かもしれん、と思った。その後「四畳半神話大系」を読んで確信を得た。著者の意向…