けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

「Windowsとは違うのだよ!」

これまで述べてきたように、亭主は今まである程度オーディオのハードウェアに投資してきた者として、PCオーディオの導入にあたっては既存のハード資源の活用を重視している。経済的な負担がもっとも大きいが、それだけでなく、長年かけて築き上げてきたシステムには、それなりの音づくりがなされているわけで、これを完全に初期化してしまうのはリスクが大きすぎるからだ。このようなトランジショナルなオーディオファイル層はそれなりの人口があると思うのだが、世の中のオーディオメーカーにはあまり魅力なターゲットではないらしい。
PCオーディオの利便性は捨てがたいが、既存のシステムよりクオリティの低い音で聴きたくはない。かといって、何十万円もする高級な機材を買い足すのはためらってしまう。そういうユーザーはあれこれ試行錯誤をせざるを得ない。亭主がこの1年くらいローコストのPCオーディオにこだわってきたのは、高級機に手を出すにしても、PCオーディオの基本的な論点を認識し、実際に検証してからにしようと思ったからだ。折良く、それに値するようなハイCP製品が登場してきたことで、いろいろと勉強させてもらった。
そうした試行錯誤の中で、音楽再生アプリの問題は常に念頭にあった。ただ、あまり頻繁にソフトウェアをいじってしまうとハードの性能がわからなくなってしまうこともあり、これまでは基本的にfoobar2000を使ってきたのである。foobar2000は実に良くできたソフトウェアであり、デイリーユースには何の不満もない。しかし、同じような使い勝手で、もう少し音が良いものがないのか、という欲がでてきたのも事実だ。
そんなおり、かねてから気になっていたLinuxディストリビューションのひとつであるUbuntuのクリエイティブ作業用(?)パッケージ、Ubuntu Studioがヴァージョンアップされたことを知り、試してみたくなった。亭主は仕事の関係で、前世紀(笑)からLinux系のOSは使っているし、今でもOpen SuSEを使える環境を常時用意している。ただ、ハードウェアのドライバーの問題には、随分悩まされたこともあり、サーバー用、開発用以外の目的で Linux系を使うことは考えもしなかった。
しかし、このUbuntu StudioにはDAW関係だけでも面白そうなアプリが満載されている。しかも、先達の方々の記事を読むと、どうも音が良いということらしい。ほとんど好奇心だけで試してみることにした。以下はその報告だ。

まず、使用したディストリビューションUbuntu Studio 10.04(http://ubuntustudio.org/)だ。インストールの方法等はUbuntuの本家サイト(http://www.ubuntulinux.jp/)を参照すればよいだろう。
ただし、Linuxに触ったこともない方が、音楽をきくためだけに Ubuntu Studioをインストールするのは、非常に高いコストを支払うことになるリスクが大きい。亭主はまったくもってお薦めしない。やるなら自己責任で、などというべきではないとすら思う。くれぐれも、常用しているPCにインストールしようなどとは考えないことだ。どうしても好奇心が抑えられないのなら、起動しなくなってもかまわないPCを用意してトライすべきだろう。
あまり、脅かすとLinuxの普及を妨げる者として糾弾されそうなので、このへんにしておくが、もちろん亭主にそんなつもりはない。むしろ、トライしていただきたいのだが、最低限の常識を持って望んでほしい、と強く願う次第だ。さて、ご託はこのくらいにしておこう。

Ubuntu Studioをインストールする際に、グラフィック系かサウンド系かを選択できる。もちろんサウンド系を選ぶのだが、あとから追加できるのであまり気に病む必要はない。また、LADSPA(Linux Audio Developers Simple Plugin API)準拠のプラグインをインストールするかを選べるようになっているので、イコライザーなどを使うつもりがあれば、選択しておく。
インストールが終わり、とりあえず音を出すにはサウンドデバイスの設定が必要だが、これはノーマルなUbuntuと変わらない。ここでデバイスが認識されていなければ茨の道が待っている。亭主の場合、RME96/8PSTもProdigy Cubeもすんなり認識された。
デフォルトのマルチメディアプレーヤーはtotemだが、メニューでは「動画プレーヤー」という名前になっている。見た目はWMPとよく似ている。とりあえずWAVを聴いてみたところ「あれっ?、もしかして音が良いかも」と感じた。foobar2000と比較した場合、音の抜けが良いというか、すっきりしながら薄味にならないというか、確かに違う感じがする。
これは面倒なことになった。ちゃんと確かめる必要がでてきた。Linuxには多くの音楽プレーヤーがあるのだが、一体どれが良いのだろう、全部試すのは流石に無理、などと頭をかかえてしまった。経緯は省略するが、おん爺さんのサイトなどを参考に亭主なりに次のプレーヤーに絞り込んだ。

  1. totem(http://projects.gnome.org/totem/
  2. Rhythmbox(http://projects.gnome.org/rhythmbox/
  3. Banshee(http://banshee-project.org/
  4. Audacious(http://audacious-media-player.org/
  5. Aqualunghttp://aqualung.factorial.hu/

少しだけ説明しておくと、totemは前述の通り、標準装備のマルチメディアプレーヤーで、Gstreamerというマルチメディア・フレームワークを利用している。このGstreamerが非常に多くのCodecをサポートしているので、大抵の音楽ファイルは再生できる。実際、APEファイルも簡単に再生できた。

RythmboxiTunes的なインタフェースを備えたプレーヤーで、ライブラリ管理やプレーリストのハンドルがスマートにできる。また、PodcastやReplay Gainおサポートするなど、なかなか充実した機能を備えている。やはりGstreamerを使用しているので、基本的にはtotemと同じCodecに対応している。

Bansheeは、かなり古くから存在するLinuxベースのオープンソース・プレーヤーで、最近大幅なヴァージョンアップがあり UIや機能を一新した。Rhythmboxと同じようなことができるが、標準でグライコを装備している点はあきらかな違いだ。このアプリも Gstreamerを利用している。

Audasiousは、WinAmpLinux版ともいわれるプレーヤーで、Ubuntu Studio 10.4では標準でインストールされる。上記の3者よりはマニアックな設定ができるようになっており、特にサウンド出力にどのドライバーまたはサウンドサーバーを使用するかを選択できるようになっている。このため、DAWで使われることが多いJackサーバーを使用して FireWire(IEEE1394)デバイスを鳴らすような使い方ができるようだ(亭主の環境では、Jackとの接続では動作が不安定になる)。もちろん、ALSAOSS、PulseAudioもサポートする。

Aqualungは、本家サイト以外にほとんど情報が出ていないプレーヤーだが、Audaciousと同じく出力先を選択でき、Jackもサポートする。こちらは、亭主の環境でもちゃんと動作した。さらに、特徴的なのは、アップサンプリングとRVAという音量アジャストメント機能を備えていることだ。また、LADSPA準拠のプラグインもプレーヤーの中から利用できる。このアプリは、よく探すとディストリビューションの中に含まれていたのだが、亭主はそれに気がつかずソースからビルドした。

さて、以上のプレーヤーをざっと聞き比べてみたのだが、大雑把に言えばGstreamerを利用するものは似た傾向の音になる。つまりtotemを最初に聴いたときの印象とほぼ同じだ。AudiciousとAqualungALSA出力ではそれほど大きな違いを感じない。Jackは音が良いとされていることが多いが、亭主の環境ではALSAの方が良かった。ただJackサーバーはかなり細かい設定が可能で、いわゆるローレイテンシーが実現できるということだが、亭主の環境ではうまくゆかなかった。これがOKなら改善するかもしれない。

ひととおり試聴してみて、結局亭主が採用したのはAqualungである。
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マイナーなプレーヤーだが、機能が充実しており(foobarと同じとはいかないが)不便さはあまり感じない。先にも述べたとおり、どのプレーヤーもfoobarよりは音が良いのだが、 Aqualungはそれに加えてアップサンプリングの音質が結構良い(ただしCPUパワーを食う)。これはfoobarのアップサンプラーがあまりぱっとしなかったのと対照的だ。亭主は上質なDACを使うのであれば、アップサンプリングはアリだと考えているので、現状はとにかくとして、今後 24/96対応のDACを導入した場合を考えると、今のうちにいろいろ試しておきたいのである。

そんな訳で、今のところはAqualungをメインのプレーヤーとして利用している。LADSPA準拠の10バンド・グライコを使って低域を補正しているが、このグライコは見た目の割には優秀で、音質劣化が少ない。グライコを使っておいて劣化も何もあったものではない、と叱られそうだが、今は使えるものは何でも使ってみることにしている。その結果、やはりダメだとなれば、マルチアンプを復活させ、スーパーウーファーを鳴らせばよい。PCオーディオのリファレンスが定まっていない現状においては、試行錯誤を避けては通れないと思う。
この状態で聴く音は、Windowsよりも見晴らしが良く、情報量が多いように思うが、これはあくまでも主観的な感想だ。なんとなく良い気がする、ではあまりにも無責任なのでなんとか言葉を継いでいるに過ぎない。だから、Linuxにすればハードのグレードアップに相当する向上を期待できるなどというつもりは毛頭無いのである。
ただ冒頭に述べたようなトランジショナルなオーディオファイルの一人として、試行錯誤のいきさつを書き留めておこうと思っただけのことだ。