けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

アナログの帰還 RETURN OF ANALOG

そういうわけで、アナログ対決はあっさりとProdigyの勝利に終わったのだが、実は見落としていたことがあった。Prodigyのアナログ出力(RCAアンバランス)をダイレクトにパワーアンプB2に入力するという方法だ。
ここで、以前の記事を読んでいただいた方は首をかしげるかもしれない。それは1年前に検証したのではないかと。
ところが、この記事を書いた当時、亭主はProdigyのアナログ出力をプリアンプYAMAHA C2に入力し、これをB2に入力して聴いており、ダイレクト接続は試していなかったのだ。そして、この時点ではデジタル接続(VRDS経由)の方が良いと感じたため、以後Prodigyのアナログ出力はほとんど顧みることがなかった。
亭主がProdigyのアナログ出力に注意を払ってこなかった訳はそれだけではなく、低音再生にASWを利用するマルチアンプシステムであるため、入力の分配のためにはプリアンプが必須であるということも大きな制約になっていたのだ。
そんなおり、親友のXavierカトー氏とPCオーディオについてあれこれ意見を交換しているうちに、foobar2000のグライコ・コンポーネントを使ってf特の補正をPC側で行ってしまえば、スーパーウーファーは不要になるのではないか、というアイデアが出た。亭主の頭の中では「グライコ=音質劣化」というアナログ・オーディオマニア的固定観念ができあがっていたので、これは考えもしなかった。だが言われてみれば、foobar2000のグライコは18バンドあり、一般的な音楽プレイヤーよりも細かい調節が効く。スピーカーのf特を測定した上でこのグライコで補正をかけ、聴感上問題がなければ、非常にシンプルなシステム構成が可能になる。ものは試しである。
Xavier氏に協力してもらい、スルーの状態でf特を測定。自分で設計したスピーカーだから、特性は大体予想どおりである。そこで、foobarのグライコで55Hzのバンドを持ち上げてやる。この状態で測定用の音源を再生してみると、ダラ下がりながら40Hzまでは問題なし。30Hzも一応再生する。超低域の20Hzは流石に無理であるが、ここは好みというか、ポリシーの問題だろう。
亭主の場合、ひごろ主に聴くバロックや古楽の録音は、楽音に限れば40Hzまで再生できれば不満はない。実際は、30Hz以下がモリモリ入っている録音も少なくないのだが、それらは空調の低周波だったり、床の鳴りだったり、いわゆる環境ノイズであることが多い。これらをあまりムキになって再生してしまうと、かえって演奏自体の邪魔になる場合もあるので、ここはこれでよしとする。
さて、この状態でProdigyのデジタル同軸出力(AudioQuest製同軸ケーブルVDM-1使用)をVRDSに入力し、VRDSのアナログ出力をB2に直接入力する方法(A)と、ProdigyRCA出力(AudioQuest製RCAケーブルG-SNAKE使用)をB2に直接入力する方法(B)とを比較してみた。その結果、亭主の耳では違いがほとんどわからないのである。しかも、C2を経由していた場合に比べるとあきらかに音が良い。特に音場の表現が格段に向上し、楽器の定位や立体感も大きく改善された。例えれば、720Pのモニターから1080Pのフルハイビジョンのモニターにかわったような解像感の違いといえばよいだろうか。この音を聴いてしまうと、もう後に戻ることはできない。
foobar2000のグライコが、どのような処理を行っているにせよ、音質に関するデメリットは必ず存在するだろうが、少なくとも亭主にとっては、聴感上の問題として顕れてこないということだ。むしろ、C2が介在することによるデメリットが大きいということになる。これはC2には気の毒なことだが仕方がない。
さらに気になるのは、Prodigyのアナログ出力の音質が以前よりも良くなっているように思えることだ。けろこ堂のProdigyは以前書いたとおり、オペアンプを交換してある。いわばProdigy Cube(改)ということになるのだが、今回の結果にこのオペアンプ交換がどの程度寄与しているのか。この点については、オペアンプを元に戻すか、交換前のProdigyと比較試聴してみる、という方法で確認する必要があるが、これは近々行ってみようと思う。
当面の問題は、AとBのどちらをとるか、ということになる。実際はB2の入力が2系統あるので、両方を簡単に切り替えられるようにできるのだが、心情的には白黒つけたいところである。2万円にも満たないUSB-DACと、その10倍近い価格のCDプレーヤのDACの音が同じであるわけがない、という先入観を脇に置いてしまえば、Prodigyは24/96のソースをアナログ出力できるのに対し、VRDSのDACでは24/96受けられないという点が争点になる。
そこで、24/96のソースをProdigyのアナログ出力で聴いてみた。試聴したソースは、以前IT-PROの石塚朝生氏のコラムに掲載された、ドン・グルーシンが作成したフルデジタルのサンプル音源を24/96でミックスダウンしたというものだ。同じ音源を16/44.1でマスタリングしたものもダウンロードできるので、比較しやすい。
結果は驚くべきもので、CDクラスとは次元の異なるものだ。決定的な違いは音場である。24/96のソースでは、サラウンド・スピーカーが効いているのではないかと思うくらい、音が部屋中に充満し、スピーカーを離れて定位する。音質自体はそれほど違わないのだが、まるで別のソースである。
24/96のソースが聴けるということは、Prodigyのアナログ出力の大きなメリットであり、システム全体をシンプルにするという視点からも、この接続方式が好ましい、というのが現状における亭主の結論だ。
もちろん24/96のソースの流通は、まだ僅かなものであって、この先主流になるかどうかもわからない。現在のハイエンドマニアはSACDHDCDを再生できるシステムを所有しているであろうから、24bit音源のためにわざわざPCオーディオを使おうとは思わないだろうし、デジタルデータによる音源の供給にも興味を示さないだろう。しかし、今後PCオーディオ分野の技術が進み、ハイエンドオーディオの領域に食い込んでゆく可能性は低くはない。少なくとも、CD音源のレベルではCDプレーヤの存在意義は(超高級機を除けば)薄れつつあると言わざるを得ないし、 ローエンドマーケットがiPod一色になってしまった現状では、CD音源の存続すら懸念される。高音質デジタル音源の流通がマーケットの主流になるという可能性は低いかもしれないが、ニーズは確実に増大してゆくのではないだろうか。
ともあれ、現在のけろこ堂のシステムはPC+Prodigy+B2という超シンプルな構成になっている。もちろんこれで全てがOKというわけではなく、いろいろ検討事項もある。もっとも、あれこれ悩むのが楽しみでもあるのだから、有り難いことではあるのだが。