けろこ堂日乗(β版)

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GHOST IN THE WAV

前回までは主にハードウェアの話をしてきたが、デジタル・オーディオではソフトウェアも重要な構成要素だ。そこで、今回はリッパーとプレーヤーのことを書いておこう。
もうそんなことは知ってるよ、という方はどうぞ読み飛ばしていただきたい。
CDから音声データを吸い上げるソフトウェアをリッパーとかリッピングソフトウェアという。リッパーといえばJack the Ripperのリッパー、すなわち「切り取るヤツ」である。ずいぶん物騒な呼び名だが、機能はいたってわかりやすい。CDの音声データはISOで標準化されたフォーマットで書き込まれているが、これを読み出して、何も引かず何も加えずにHDD上に音声データとして書き込むのがリッパーの仕事だ。
ところでCDの音声はデジタルデータだから、ただ読み込んでコピーすればよいだけじゃないの、という指摘もあろう。もちろんそれも可能で、OSのファイルコピーでできてしまう。ただし、コピーされたファイルは、640MBぐらいの単一のISOイメージファイルになる。これは逆にCDに書き戻せば、そのままCDプレーヤーで再生できる形式だ。バックアップが目的であればこれでも十分であるが、検索性は悪いし管理もしにくい。
これに対して、音声データを楽曲単位(トラック単位)で切り出すことができれば、いちいち再生しなくても聴きたい曲を探し出すことができるし、管理もしやすくなる。さらに楽曲のメタデータ(書籍でいうところの書誌情報)をついでに付加してやれば、データベース化も容易になるだろう。そこでリッパーの出番である。
リッパーの基本機能は、CD上の音楽データをトラック毎に切り出してPCで扱いやすい形式のファイルとして書き出すことだ。通常はトラック数分の非圧縮WAVファイルが生成される。このままでも曲を再生することは可能だ。しかしほとんどのリッパーはもうすこしサービス精神があって、WAVファイルをMP3やWMA等の圧縮形式にエンコードする機能を備えていることが多い。つまりリッパーとエンコーダーが一体化しているということだ。
さて亭主が利用しているリッパーはEAC(Exact Audio Copy)といって、その道では定評のあるドイツ製のフリーウェアである。
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いかにもゲルマンな色気も何も無いユーザーインタフェースや、マニアックなCDドライブのキャリブレーション機能など、とっつきにくいことこの上ない。しかし、この素っ気ないインタフェースが思いのほか使いやすく、しかも痒いところに手が届くような設定の細かさが非常に便利なのだ。
EACの有り難い機能のひとつは、外部の圧縮用エンコーダーを利用することができるので、大抵の形式のエンコーディングが行えることだ。リッパーという性質上、一度WAVファイルを切り出してからエンコーディングを実行する2パス方式になるため、専用のエンコーディングソフトに比べれば時間がかかるが実行速度自体は結構早い。
もうひとつの便利な機能は、CDメタデータのフリーデータベースであるFreeDBに対応しているので、CDをセットして起動すればアルバム名やアーティスト名の情報を自動的に取得してくれることだ。これはMP3のエンコーダでは当たり前の機能だが、WAVファイルのまま保存する場合はメタデータタグを保持できないので、通常は無駄になってしまう。ところがEACは、CUE SHEETというメタ情報とトラック情報のインデクスファイルを生成する機能を持っていて、これを使えばCD全体を一つのWAVファイルにしても、CUE SHEET経由でランダムアクセスが可能になる。(ただし、プレーヤーがCUE SHEETに対応していることが必要。)
亭主はこのEACを利用してCDをリッピングし、可逆圧縮方式のAPEファイル(Monkey's Audioにより開発されたライセンスフリーの可逆圧縮方式)にエンコードしている。可逆圧縮方式はロスレスと呼ばれることもあるが、圧縮データを復号する際に原データを100%再現できることを保証する符号化を採用している圧縮方式をいう。可逆圧縮方式には、APE以外に、Windows Lossless、Apple LosslessFLACなどがあるが、圧縮効率の良さ、エンコードの速さ、再生できるプレーヤーの多さなどを勘案して、亭主はAPEを採用している。
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EACはデフォルト状態ではAPEのエンコーディングに対応していないので、まずMonkey's Audioをダウンロードして、コマンドラインベースのAPEエンコーダであるMAC.exeを外部エンコーダとしてEACに登録してやる必要がある。このあたりは多少PCの知識が必要だが、Web上には親切なサイトがたくさんあるので心配ない。
また、エンコードする時にID3タグを付加するオプションを指定しておくと出力されるファイルにタグ情報が付加されるので、オーディオプレーヤーが対応していれば再生時にID3タグの情報を利用できる。これは非常に便利な機能だ。
さて、APEにエンコードしたファイルを再生するのには、APEに対応したオーディオプレーヤー(ソフトウェア)が必要だ。亭主は先にも書いたとおりfoobar2000を利用している。実はfoobar2000もデフォルト状態ではAPEに対応していないが、本家サイトからAPEデコード用のプラグインが入手できる。これをプラグイン用のフォルダにコピーすればOKである。foobar2000の素晴らしいところはこうしたプラグインが充実していることで、世界中に愛用者が多いことも頷ける。ただし、EACと同じく素っ気ないにもほどがあるというユーザーインタフェースや、マニアックな設定機能など、万人向けとはいえない代物だ。
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亭主は、かなり昔からPC用のオーディオプレーヤーをあれこれ試してきた経験がある。古くはMusicMatch、Winamp、つい最近まではQuitessential Player、もちろんiTunesも使ってみた。どれもそれぞれ持ち味があるのだが、最近のエンコード方式の多様化を踏まえるとプラグインやアドオンで新しいデコーダに対応できる構造のものが主流になってくるのは当然だろう。その意味でfoobar2000は白眉だといってよい。
しかし亭主がいくら良いといっても、iTunesならこんなややこしいことをしなくても済むんじゃないの、と言われれば、その通りです、と答えるしかない。iPod + iTunesで何か悪いところがあるわけではなく、これは全く趣味の問題だ。
今のところiTunes可逆圧縮方式のエンコードをしようとすれば、問答無用でApple Losslessになってしまう。Apple LosslessをサポートするプレーヤーはiPodだけ。(Apple Lossless Audio Codecの仕様は非公開なので、当然市販製品には搭載できない。ソフトウェアとしてはリバースエンジニアリングによりオープンソースのデコーダーが公開されたらしい。)亭主はこういう縛りは苦手だし、楽しみを奪われているようで釈然としない。そもそもオーディオは趣味の世界なのだから、組み合わせの自由、選択の自由があってこそ楽しい。だからiPodiTunesも結構。ただ亭主は他の方法で楽しみたい、それだけのことだ。