けろこ堂日乗(β版)

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アラブとヨーロッパの不思議な出逢い

久しぶりに古楽のCDを買った。1枚目は亭主の敬愛するビオラ・ダ・ガンバの名手にして古楽演奏の大家Jordi Savallの「Orient-Occident」というアルバム。2枚目は廉価盤クラシックとしておなじみのNAXOSレーベルでOni Wytars Ensembleというグループの「From Byzantium to Andalusia」というアルバムだ。
亭主はSavallの録音はCD,LPともにかなり所有している。個人のクラシック演奏家としてはもっとも数が多いだろう。理由は三つ、言うまでもなく演奏が優れていること、選曲が面白いこと、録音が良いことだ。最初のきっかけは、故長岡鉄男師の「外盤A級セレクション」で紹介されていた「Musical Humors」というLPだ。その演奏者がSavallだったのだ。当時(1990年ごろ)、SavallはもっぱらAstreeというレーベルからLPを出していたのだが、このレーベルはおしなべて録音が良い。濃厚で空気が凝縮されたような録音で、時として凄まじくパワーのある中低音が入っている。こってりしすぎているきらいはあるので、好き嫌いが分かれるとは思うが。ガンバの演奏の場合は、低弦の音域がもりもり押し出してきて、初めて聴く人はかなり驚く。それでも生でガンバを聴いたことがあれば、忠実な録音であることはすぐわかる。何しろ非常に特色のある録音なのだ。
Savallはその後、自ら古楽専門レーベルであるAlia Voxを立ち上げ、現在はこのレーベルから精力的に録音を発表し続けている。今回入手したCDもAlia Voxだ。このレーベルはプラスチックのCDケースではなく、丈夫なコート紙を折りたたんだ独特のジャケットを使用している。そしてそのデザインは重厚でありながらモダンで美しい。地味なジャケットが多い古楽コーナーに置かれていると、思わず手に取ってみたくなる。録音はAstree時代の傾向を引き継いでいるが、より解像度が高くなり、バランスが良くなった。その分独特の濃厚な味わいはやや薄れた感じがするが、優秀であることは間違いない。

さてレーベルの話が長くなってしまったが、「Orient-Occident」である。演奏はSavall以外にアフガニスタン、ギリシャなどメンバーが伝統楽器を携えて参加している。曲はアルフォンソ10世のカンティーガやスペインのイスタンピータ、サラセン朝の音楽、イタリアの世俗曲などから器楽曲を中心に取り上げられている。いわゆるアラブ・アンダルシア音楽の成立の背景、東洋と西洋の音楽の交歓に想いを馳せた構成で、非常に興味深く、聴いていて楽しい。
録音は優秀。特に奥行きが良く出ており、微少な残響も収録されている。驚くような超低音などは入っていないが、それでも手持ちの太鼓(タンブーラ?)の長い残響が素晴らしい。

2枚目は、Oni Wytars Ensembleという演奏家グループだが、詳しいことは良くわからない。おそらく定常的なグループではないと思う。録音はコンサートホールのライブ。盛大な拍手が入っている。NAXOSは値段が安いだけでなく(ちなみにこのCDはタワーレコードのSpecial Priceで830円!、SavallのCDもSpecial Priceで2020円!!)めったにお目にかかれないマイナーな作品があったりするので、チェックを怠れないレーベルだ。ただし、録音の質は当たりはずれの差が大きい。もっとも安いので「はずれ」でも気にならないのが良い。このCDは優秀録音とは言えないが、まずまずだ。おそらくステージにたてたペアマイクによる録音だろう。
何よりも驚くのは、その1曲目。「Kyrie」なのだが、なんとレバノンの、つまりアラブ世界の旋律で歌われるのだ。勿論歴史的な経緯を考えれば、こういう宗教曲があってもおかしくはないのだが、実際に聴くとかなり衝撃がある。カトリックの宗教曲に馴染みのない方にはピンとこないかもれないが、Kyrie eleisonの繰り返しのあとにレバノン語(?)の歌詞が続くのだ。さながら日本のオラショのようである。亭主としてはこの1曲だけでこのCDの元をとったと思っている。
珍しく筆が走ったので長文になってしまった。ここまでおつきあい下さった方には感謝である。

Orient-Occident

Orient-Occident

From Byzantium to Andalusia

From Byzantium to Andalusia

Musicall Humors 1605

Musicall Humors 1605