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CONCORSO D'ELEGANZA VILLA D'ESTE 2008 (8)

ザガートの新作に想う

f:id:mhana:20080618000944j:image:w200:leftVilla d'EsteのConcorso d'Eleganzaの翌日は、会場を近くのVilla Elbaに移し一般公開のエキジビジョンが行われた。このエキジビジョンでは、コンセプトカーの公開投票が行われ、エルメスとのコラボモデルを出品したBugattiが1位になった。この投票結果については、ちょっと首を傾げたくなるところだが、多数決というのはこういうものだろう。

今年のコンセプトカー部門では何と言っても、Zagato(ザガート)のBentley Continental GTZが注目を浴びていた。2006年に発表したFerrari575が、林氏の個人発注によるものであったのに対して、今回のContinental GTZはごく少数ながら受注生産されるというのだ。もちろん、もともと高価な車であるから、そのスペシャルボディとなれば途方もない価格になることは確かだが、Villa d'Esteにはそのような超高額車を多数所有する人々も集まるわけで、彼らの目には(オークションを経ずに!)手に入る希少車として非常に魅力的に映ったに違いない。
このイタリアン・カロッツエリアの老舗、ザガートのデザイン部門のチーフが原田則彦氏であることは今ではよく知られている。かつてランボルギーニディアブロの後継モデルのコンペを実施した際に、かのガンディーニのプランを押さえてザガートがこれを勝ち取ったことは公然の秘密だが、その開発コード名「カント」は原田氏の初期の傑作である。カントは市販寸前まで開発が進みながら、VWグループによるランボルギーニ買収の余波を受けて中止され、結局ムルシェラゴが市販された訳だが、一説にはピエヒ会長がカントの「華やかな」デザインをきらったためともきく。スクープ雑誌等で路上走行テストを行うカントの写真をご覧になった方も多いだろう。少量生産車の世界ではありがちな話であるが残念でならない。最もカントは闇に葬られることなくちゃんと保存されているので、将来Villa d'Esteに登場することがあるやも知れぬ。

原田氏は若手といわれた頃から、デザイントレンドに迎合することなく、自身の美学と造形哲学に忠実な作品を発表してきたといってよいだろう。実際、世界中の自動車メーカーがニューエッジデザインに向かう中、古典的ともいえるグラマラスなフォルムを持つアストンマーティンDB7 ZAGATOを発表し、99台のこの特別仕様車をめぐって世界中のアストンマーティン・ファンの間で激しい争奪戦が起こったことは記憶に新しい。また、トヨタ傘下のモデリスタによりMR-Sベースのスペシャリティとして限定生産されたVM180ZAGATOは、氏がランボルギーニラプターで見せた近未来スポーツカーのイメージを日本車の規格下で実現させてしまった希有な作品である。氏が日本人であるとか、同世代であるとか、ということではなく、このような魅力的な車を生み出すことができるデザイナーが活躍してくれることは、一人の車好きとして喜ばしい限りである。ベルトーネの経営破綻が物語るように、カロッツエリアを巡る経済環境は決して楽観的なものでないときく。そうした逆境に負けることなく氏がますますパワフルに活躍されることを願って止まない。

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Continental GTZの力強いフロントクォータービュウ
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ルーフとボンネットのサイドのみを塗り分けた
非常に繊細なツートーン塗装。
デザイナー自らがマスキングラインを引いたという。
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受注により極少数が生産されるという。
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Villa Elbaの湖畔にたたずむGTZ
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まさにスタアのデビュー
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ザガート伝統の"ダブルバブル"ルーフが
特徴的なリアビュウ。
もはや原田氏のトレードマークになりつつある。