ラファエル前派と内田善美
芸術新潮がラファエル前派を特集している。
もちろん森アートセンターの「ラファエル前派展」に絡んでのことだ。
この特集の中で、少女漫画とラファエル前派の関係についての記事がある。
亭主がラファエル前派にのめりこむきっかけは、高校2年のころのことだから、1975年ごろだろうか。今から40年近く前のことだ。
内田善美さんという少女漫画家がいて、彼女がラファエル前派の、特にバーン=ジョーンズにインスパイアされたようなイラスト作品をいくつか描いていた。この人はひどく寡作な作家で、めちゃくちゃ上手いが四半期に一回発売されるリボンDXという雑誌にしか載らない。当時は今のような周辺情報もないので見逃したらアウト。そのころ必死に集めた作品は未だに書棚にしまってある。芸術新潮の1ページにその内田先生のイラストが載る時代がくるとは、夢にも思わなかった。
当時はまだ、バーン=ジョーンズもウォーターハウスもロセッティもその名前を知らなかったけれど、100年も前に自分が描きたいような絵を描いていた人達がいたことを知って、えらく感激したことを覚えている。
「こういう絵を描いてもいいんだ」という開放感というのだろうか。
初めて、ロンドンを訪れた1986年のこと、ホテルにチェックインしたその足で向かったのは、テート・ギャラリー、まさに今回の展覧会の作品を所蔵している美術館だった。そこでバーン=ジョーンズの「黄金の階段」を、ウォーターハウスの「シャーロットの乙女」を、そしてエヴァレット・ミレーの「オフィーリア」(芸術新潮の表紙)を目にしたときの感動と衝撃は忘れることができない。それは焦りにも似た「描かなきゃ!」という衝動になって、そのあと随分長いこと自分の創作をつき動かしてきたように思う。
40年近くもたって、芸術新潮の中にかつての憧れの漫画家の名前をみつけるというのは感慨深い。
もっとも結局、絵描きにはなれなかったのだから、ただの感傷に過ぎないのかもしれないが。