けろこ堂日乗(β版)

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「PCIだって決して不適格者じゃないわ」

この1年ほどの間に、PCオーディオというコンセプトは急速に普及したようだ。
それに呼応するように最近では国内外の様々な新製品が雑誌や情報サイトを賑わしているが、実際に市場規模がどの程度か、などという議論は早計だろう。
そもそも、オーディオ製品という分野が絶滅に瀕している状態にあって、さらなる細分化は命取りになりかねない。
古いマニアは新しいデバイスの登場を素直に喜び、ニューカマーはアナログ時代からの貴重な情報に耳を傾け、皆で盛りたてていったほうが面白くなるに違いない。
先日、中野のフジヤAVIC主催の「ヘッドフォン祭り」に行ってみたが、開場直後にもかかわらず、満員の状態。皆熱心に試聴している。オープンエアのオーディオと違って、ヘッドフォンの場合、試聴していても音がしないからちょっと不思議な光景だ。
そこで感じたのは、老若男女を問わずオーディオファンはまだ絶滅していないということ。たとえそれがヘッドフォンオーディオという分野であっても、同じ「匂い」の人達が、これほど集まるという事実。人混みが苦手な亭主だが、不思議と苦痛には感じなかったのは、同じ興味を共有する人達がつくりだすハーモニクスの力だったのだろうか。

さて、前置きが長くなったが、けろこ堂オーディオシステムのその後を報告しておこう。
この数ヶ月の間に、いくつかのことを試行錯誤してみた。

1.あらためてPCIオーディオカードを使ってみる
2.VRDS-25XS のDACを見直す
3.Linuxで音楽再生を試す

まず、1について。
PCIオーディオカードは「電磁波が飛び交うPCの筐体内に設置するので、ノイズの影響を受けやすく、音がよくない」という説を目にすることが多い。亭主は電磁気学を修めていないので、この説の真偽について議論する資格がない。ただ、エンドユーザーとしては自分の耳で確かめてから判断するべきだろうと常々思っていた。そこで、音楽再生用PCを製作したのを機にPCIオーディオカードもちゃんと聴いてみることにした。
使用したカードはRME Digi 96/8PSTという、一時期かなりもてはやされたものだ。けろこ堂ではこれをホームシアター用PC(いわゆるHTPC)のオーディオカードとして使っていたが、Prodigy Cubeやラステームの導入によりオーディオ専用にまわすことができるようになった。
このカードはRME社の製品としては最廉価(4万円前後)のものだが、デジタル出力の音質には定評がある。
今回は、これの光出力をVRDS-25XSのDACに入力して試聴してみた。比較対象としては、Prodigy Cubeの光出力、アナログ出力(RCA)を聴いた。
機材構成は、f:id:mhana:20100608102717j:image:right
PCトランスポート:自作 PC(Athlon II x4 905e)、Windows7 professional(32bit)
DAC:TEAC VRDS-25XS
オーディオアンプ:NEC A-10X
スピーカー:自作16cmフルレンジ(FOSTEX FE168ES)単発バスレフシステム+スーパーツゥイーター(FOSTEX T90A)
再生アプリ:foobar2000+asio4all、 Frieve Audio
なお、RMEは購入時のままで、一切手を加えていない。RME社は96/8PSTのサポートを終了しているため、ドライバは2000/XP用のもの(version 2.11)しかないが、これをWindows7にインストールしたところ、問題なくカードが認識され音も出るようになった。
Prodigy CubeはオペアンプをLM6172INに換装してある。
RMEProdigyもソフトウェアの音量は全開、イコライザーはOFFとし、A- 10Xのボリウムで調節した。

言い忘れたが、RMEはフォーンジャックからアナログ出力が取り出せるが、今回は比較の対象にしていない。理由は、Prodigy Cubeのアナログ出力と比較して明らかに音質が劣るからだ。ただし、これはRME96/8PSTの初期モデルにみられる問題で、後にコンデンサーの改良等により改善されたときく。念のため付け加えるなら、音質が劣るといってもHi-Fiユースを前提とした評価であって、モニタ出力としては悪くない。人によってはこの音のほうが気に入るということもあるだろう。実際亭主は、DVDをプロジェクタで観る場合はRMEのアナログ出力をB2に入力して聴いていたのであって、これはこれで十分使える。

さて比較試聴結果だが、亭主の耳にはProdigy Cubeのデジタル出力よりも、RMEの方が好ましく聞こえる。もうすこし具体的にいえば、RMEは音場が広く、音のディティールが明瞭になる。これに比べるとProdigyのデジタル出力はやや平板な感じがする。
またProdigyのアナログ出力と比べても、RMEが上記の点で優れているように感じる。Prodigyのアナログ出力は力強さという点では好ましいが、音場の広がり、解像度という点でやや劣るという印象。(以前報告したとおり、けろこ堂のシステムではProdigy Cubeのアナログ出力とデジタル出力の差はほとんどわからない程度だ。)いずれも、わずかな差だが、かといって聴けばわかる程度の開きがあることも確かである。

この結果からは、少なくとも、RMEのデジタル出力は十分Hi-Fi用途に耐える品質だといえる。当然のことながら、このような比較でUSBオーディオデバイスとPCIオーディオカードという方式の優劣を判定できるわけはない(そのつもりもない)が、「PCIカードはUSBデバイスより音が悪い」という一般化には実質的な意味がないと言ってもよいだろう。
次に、VRDS-25XSのDACの性能は、DDCRMEDDCということにすれば)の差を聞き分ける程度のマージンがまだある、ということだろう。このことはより高性能のDACを使えば、さらなる向上が期待できるということを意味する。
亭主の大きな誤りは、Prodigyのアナログ出力とデジタル出力の差をDACの差として解釈し、VRDSのDACの性能が Prodigy並みと考えてしまった点である。実際は、VRDSはDDCの性能を正直に出力していたと考えるべきで、Prodigyのアナログ出力とデジタル出力がほとんど同じに聞こえたのは当然のことと言えそうだ。加えて、DDCの音質の重要性をあまり認識していなかったということも未熟な点であった。
今回の結果は全くの主観評価でしかないが、真っ当に作られたオーディオ製品(この場合はVRDS-25XS)の性能を見くびってはいけない、という教訓を得たのは収穫である。
DACやDDCの性能は、とかく使用しているチップの種類から推測で語られることが多いように思うが、やはり自分の耳で確かめないと痛い目に遭う。同様にPCIやUSBの音質という問題も、一般論で片付けるのは難しいと思う。

こうした議論は、終局的には「好み」の問題になってしまうのだが、試行錯誤の結果が同好の士の役に立つこともあるだろうと思い、報告してみた。

実はこの後、親友の Xavier氏がラトック社からRAL-2496UT1というUSBオーディオデバイスを借りてくれたので、DDCの性能差をより具体的に試聴することができた。この結果は次回に報告しよう。