クリスマスに聴く古楽
クリスマスが近づくと、やたらと同じ音楽ばかり耳にするようになる。好きな曲もあれば、嫌いな曲もあるが繁華街に出ようものなら一日中聴かされる訳で、これには閉口する。
亭主は、カトリック系の学校で育ったこともあり、クリスマスイブには何となく厳かな気持ちになる。そんな時に聴きたいのは、古いクリスマスの音楽だ。あらためてクリスマス用に集めた訳ではないが、コレクションを調べてみたら結構見つかる。そのいくつかを紹介しよう。
| アナログレコードは故長岡鉄男氏の優秀録音推薦盤である。改めて聴いてみたが、本当に秀逸。豊かなホールエコーと抜群の音場感によって、中世の教会に引きずり込まれるような感じがする。このアルバムはiPodではなく、ちゃんとしたオーディオシステムで聴いていただきたいところだ。スピーカーを無視するように音像が定位するはずだ。「そんなもの無い」という方は是非、非圧縮で聴いて欲しい。 曲目は、グレゴリアンあり、カタルーニャあり、ドイツあり、とバラエティに富んでいるが、古楽ファンにはお馴染みの曲が多い。それだけに他の音源との比較も用意だろう。 古楽に馴染みの薄い人でも、部屋を暗くして静かに聴いてみてほしい。幼子の誕生を言祝ぐ中世の人々の歌声が思いの外、親しみやすいものであることに気づくはずだ。 しばらく入手が困難になっていたが、幸いElecta-Nonesuchとして再版され廉価に購入できる。(写真のジャケットは最新盤ではない。現在手に入るものは絵柄は同じだが地が茶色である。) |
frofro アーティスト: IOCULATORES 出版社/メーカー: RAUM KLANG 発売日: 1995? メディア: CD | このCDも長岡鉄男氏の推薦盤である。RAUM KLANGはドイツのマイナーレーベルで、主にペアマイク録音を中心とする高音質のCDをリリースしている。どのアルバムもジャケットのセンスが良く、見た目だけでも手に取ってみたくなる。 演奏者のIOCULATORESは、ライプツィッヒ音楽大学、ライプツィッヒ大学などの学生、卒業生等が中心になって結成された中世ヨーロッパ音楽を専門とするアンサンブルで、同じレーベルから何枚かのCDをリリースしている。 ブックレットには丁寧な説明とオリジナル譜の写真などが掲載されている。器楽曲である"CONCORDIA"はネウマ譜で記載されており、これがどうすると曲になるのか考えながら聴くのも楽しい。 録音は非常に良い。ホールエコーが美しく、楽器の定位感、全体の音場なども秀逸で、スピーカーを離れて音像が現れる。オーディオ的にも楽しめる一枚だ。 リリースが古いため、残念ながら発売元のサイトでもカタログ落ち状態だが、インターネットをまめにチェックすれば新品が手に入る可能性はある。 |
ノエル アーティスト: アンサンブル・エクレジア 出版社/メーカー: 女子パウロ会 発売日: 1995 メディア: CD イギリスの古いキャロル アーティスト: アンサンブル・エクレジア 出版社/メーカー: 女子パウロ会 発売日: 1999/11/04 メディア: CD | リュート奏者つのだたかしが率いるアンサンブル・エクレジアのアルバムを2つ。「ノエル」は中世フランスのクリスマスの音楽、「イギリスの古いキャロル」は題名の通り、イギリスのクリスマス音楽を中心にした選曲だ。どちらも大変良い演奏で、日本人アーティストによる古楽の録音としても屈指の優秀録音だと思う。 古楽ファンには、波多野睦美のノンビブラートの伸びやかな歌声が天上に届けとばかり響き渡る「ノエル」をまずお試しいただきたい。米良良一のグレゴリアンや"聖なる乙女"もなかなか良い。ブルゴーニュの古いノエル"Pati Patapan!"などは古楽ファンにはたまらない曲である。 古楽になじみのない人には「イギリス・・・」をお勧めする。特に"What Child Is This"は有名なグリーンスリーブスの旋律に乗せて歌われる美しい曲だ。波多野の透き通った歌声がイギリスの寒い冬空に冴えわたる月を連想させる。 残念ながら、「ノエル」すでに絶版のようだが、中古ならまだ入手可能だろう。 |
Puer Natus Est アーティスト: Vocal Ensemble Cappella 出版社/メーカー: Regulus 発売日: 2003/10/02 メディア: CD | 日本におけるグレゴリアンおよびルネサンス歌唱の第一人者、花井哲朗が率いるヴォーカル・アンサンブル カペラのクリスマスミサのアルバム。タイトルは「幼子が生まれた!」という意味で、同名のグレゴリアンからアルバムが始まる。 カペラは、ほぼ年に1枚のペースで非常に意欲的かつレベルの高いCDをリリースし続けており、数少ない日本人によるルネサンス歌唱のアンサンブルとして独自の地位を築きつつある。教会の中でコワイヤ・ブックを囲んで唱うスタイルをとり、発音や発声も原典の研究に基づいた再現に挑戦している。その真摯な演奏は高く評価されるべきだと思う。 このアルバムは、ラ・リュー(Pierre de la Rue)によるの表題のミサ曲とジャン・ムトン(jean Mouton)のモテットを組み合わせたものだ。入祭唱(Introtius)と続唱(Sequentia)にはグレゴリアンが歌われる。純然たる宗教曲(典礼曲)といってよいが、大変親しみやすく聴きやすい曲だ。ルネンサンス時代のヨーロッパの教会で行われた降誕節のミサに思いを馳せながら静かに聴いてみたい一枚。 |
| このアルバムは古楽演奏ではない。Loreena McKennittはカナダの女性アーティストで、トラディショナルな音楽にインスパイアされた曲作りが特徴的だ。この点はEnyaと共通していると言えなくもない。いわゆるトラッド・フォークとは違って電子楽器もマルチトラックレコーディングも使うが、アイリッシュ・ミュージックやケルティック・ミュージックの香りを強く感じさせる作風は独自の境地を切り開いているといえよう。 海外ではカナダ・北米を中心にかなり有名なアーティストだが、日本での知名度はあまり高くない。しかしながら、CDの入手は容易だ。 そのLoreenaが久々にリリースしたアルバムは、クリスマスがテーマ。内容はオリジナルだけでなく、トラディショナルなキャロルを沢山取り入れており、他のアルバムに比べても古楽的なテイストが強いものになっている。特に伝統的な曲のアレンジは冴えており、トラッドや古楽に興味のない人でも思わず聴き入ってしまうと思う。「イギリスの古いキャロル」と同じタイトルも含まれているので、聴きき比べてみるのも面白い。 奇しくもEnyaの「And Winter Came」が大売り出し中だが、このアルバムも負けずによい出来である。いつもと違うクリスマス音楽をお望みの方にお勧め。 |