けろこ堂日乗(β版)

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バイバイ、マイクル

またしても巨星の訃報である。
亭主がマイクル・クライトンの「アンドロメダ病原体」を初めて読んだのは中学生の時。世の中にはこんな緻密なSFを書ける人がいるんだ、と感動し大きな影響を受けた。環境に適応しつつ次々と性質を変える謎の病原体を追い詰める科学者チームの活躍を描いたサスペンス小説だが、手抜きのない科学考証やSF的ギミックを利用した論理的展開などはハードSFとしても一流の作品だと思う。
そのマイクルが、享年66歳という若さで他界してしまった。心よりお悔やみ申し上げる。
亭主は、一度だけマイクル本人に会ったことがある。
慶應義塾大学が三田キャンパスにGSEC(グローバルセキュリティ・リサーチセンター、現グローバルセキュリティ研究所)を開設した際に、ちょうど早川書房の招きで来日していたマイクルに記念講演を依頼したのである。亭主は幸いにもその場に居合わせ、講演後のマイクルと少しだけ言葉を交わし、発刊されたばかりの「タイムライン」にサインを頂いた。身長が190cmを超える長身で、その肩の上に不釣り合いなほど小さな頭が乗っている、という感じで、亭主は見上げないと顔が見えなかった。亭主が開発していたシステムのデモを見せると非常に興味を持ってくれたのがうれしかったが、完全に舞い上がっていたので何を話したのか、さっぱり覚えていない。
GSECを去る際に、マイクルはプレゼンテーションホールの片隅にあるカフェ・カウンターのホワイトボードにサインを残した。それ故この場所は「クライトン・カフェ」と呼ばれている。
その後、環境テロを題材にした「恐怖の存在」の冒頭に、このGSECがちょっとだけ登場している。名称こそ変えてあるが、ちゃんと慶應大学の三田キャンパスにある設定になっている。流石に何事も無駄にしないな、と感心したものだが、マイクルが「ちゃんと覚えてるぜ」とメッセージを送ってくれたような気がして嬉しかったのも事実だ。もっとも慶應大学関係者のほとんどはこのことを知るまい。

アンドロメダ病原体 (ハヤカワ文庫 SF (208))

アンドロメダ病原体 (ハヤカワ文庫 SF (208))

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

恐怖の存在 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)

恐怖の存在 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)