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蒼路の旅人・天と地の守り人(三部作)

全巻を軽装版で揃えるつもりでいた「守り人・旅人シリーズ」だが、「蒼路の旅人」を読んだところでとうとう我慢できなくなり、ハードカバーに手を出してしまった。亭主と同じ羽目に陥った方は少なくなかろう。「蒼路の旅人」と「天と地の守り人」それぞれ独立した作品だが、実質的には全四巻の長編だと、その辺の小中学生ならご存知だったのだろうが、オヤジは知らなかったのである。実際のところ「蒼路」を読んだら、即「天と地」を読まなければ悶絶間違いなしである。これから読まれる方には、くれぐれも忠告しておきたい。全巻軽装版で揃えたいなら「天と地」の軽装版が出るまで待つべきである。

それほど「蒼路」のエンディングまでの盛り上げ方は見事であり、成長したチャグムの悲壮な決意をたたきつけられて、読者は居ても立ってもおられなくなるのだ。

慣例通り、「旅人」はチャグムのストーリー、「守り人」はバルサのストーリーだが、最後の四冊はこの二人の主人公の運命に、これまでの登場人物のほとんどが絡み、大団円にふさわしいスケールの大きな展開になる。

このシリーズの人物描写は割とあっさりとしていて、登場人物の屈折率(?)はきょうびのラノベに比らべれば遙かに少ない。一番大きな影を背負っているバルサにしても、内面の葛藤の描写はあっても基本は直球勝負だ。では深みがないか、といえば決してそうではなく、どの登場人物であっても人間として「芯」が感じられるのだ。二人の強烈な主人公を擁しながら、物語の求心力が失われないのは、こうした人物造形の見事さによるところが大きいと思う。

流行の表現でいえば「蒼路」は鬱展開のストーリーだ。強大な外敵の脅威の前に、チャグムは祖国の命運を決する決断を迫られる。しかも帝である父と皇太子である自身との避けがたい確執が顕在化することで、チャグムは八方塞がりの危機に追い込まれてしまう。ラストでは、その苦闘の果てにチャグムが選択した思いもかけない行動が描かれる。「精霊」から始まるシリーズを読み進めてきた読者にとっては、「えぇー!ここで終わっちゃうの?」と言いながらもチャグムならそうする、と納得して読了できるはずだ。

「蒼路」のラストで読者には、様々な疑問や期待がもたらされる。国対国の戦乱が迫る中、一介の用心棒でしかないバルサに何ができるのか?バルサとチャグムの運命はどこで交わるのか?「天と地」はこの疑問や期待を全くの正面突破で描いてゆく。そこには奇蹟もどんでん返しもない、歴史の一幕が淡々と語られのだ。

正直に言えば、亭主はこの四冊を読む間、泣きっぱなしだった。未だに何があれほど胸に迫ってきたのか、上手く説明できないでいる。でも説明は無用だとも思う。感動とは頭で理解することではないのだから。

蒼路の旅人 (軽装版偕成社ポッシュ)

蒼路の旅人 (軽装版偕成社ポッシュ)

天と地の守り人〈第1部〉 (偕成社ワンダーランド)

天と地の守り人〈第1部〉 (偕成社ワンダーランド)

天と地の守り人〈第2部〉 (偕成社ワンダーランド 33)

天と地の守り人〈第2部〉 (偕成社ワンダーランド 33)

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)