けろこ堂日乗(β版)

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CONCORSO D'ELEGANZA VILLA D'ESTE 2008 (6)

今回紹介するCLASS Gは亭主にとって「憧れの車」がエントリーされていた。それはBizzarrini MantaとプロトタイプStratosである。30年以上も前に初めてこの車達の写真を見た時の衝撃を今でも憶えている。正直言ってこの2台を見ることができただけでも、遙々コモ湖まで出かけていった甲斐があったというものだ。
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CLASS G "ITALIAN DREAMS - SHOW CARS BY ITALIAN DESIGNERS"

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No.86 Pegaso Z-102 "Thrill"(ペガソ Z-102 "スリル"), 1953
この極めてユニークなペガソは正真正銘のワンオフモデルである。W.P.RicartのオーダーによりTouring(ツーリング)が製作したこのボディは、Bianchi Anderloni(ビアンキ・アンデローニ)によりデザインされた。トリノ、パリ、ロンドン、バルセロナの各モーターショーで注目を集めた後、1994年のペブルビーチに出品され受賞している。フロントエンドこそペガソのアイデンティティを留めているものの、キャビンから後ろは「見たこともない」巨大な曲面ガラスを用いた航空機キャノピーのような形状になっており、ルーフとショルダーラインをつなぐウイングがリアピラーを取り巻くように成形されている。一見してエアロダイナミックなイメージを狙ったものであることは理解できるが、実際のところ空力特性の向上に役に立っているのかは亭主には判らない。コンセプトカーに詳しい方なら、かのベルトーネの"B.A.T."シリーズを思いおこされるかもしれない。赤と黒のツートーンボディに白いタイヤというド派手な外装もで目立ちまくっていたが、下品にならないところがさすがにTouringというべきか。とにかく秀逸な1台である。
8気筒 2816cc
Carrozzeria: Touring
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f:id:mhana:20080530024402j:image:w200 No.88 Jaguar XK150(ジャグァ XK150), 1958スイスのコーチビルダーGhia-Aigle(元はトリノのGhiaの子会社で1950年代に独立)によって製作されたJaguar XK 150ベースのクーペ。カタログによれば、Ghia-Aigleのためのデザインを多く手がけていたMicherottiの作品ということだが、亭主が調べたところではPietro Fruaの作品という情報もある。この時期FruaはMicherotti(ミケロッティ)の後を受けてGhia-Aigleのデザインを受注するようになっていたようで、Micherottiの仕事を引き継いだということも考えられる。曲率の大きなグラスエリア、テールフィン風のリアエンドなど時代の流行をおさえている一方で、クラシカルなリアフェンダーを想像させるショルダーラインの造形などは、やはりMicherottiのテイストを感じさせる。そのあたりの真相は置いておくとしても、かつてGhia-Aigleのパンフレットに誇らしげに掲載されていた、貴重なワンオフであることは間違いない。丁寧なレストレーションを経て、今回初めて公開されたということである。大きな車体でありながら、伸びやかなデザインが軽快さを感じさせる車だ。

6気筒 3442cc
Carrozzeria: Ghia-Aigle
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f:id:mhana:20080530024511j:image:w200 No.90 De Tomaso Pantera 7X/Montella(デ・トマソ パンテーラ 7X/モンテッラ), 1973
量産のPantera(パンテーラ)を知っている人も、こんなパンテーラは見たことないだろう。それもそのはずで、パンテーラの後継車としてTom Tjaarda(トム・ジャーダまたはトム・チャーダ)がデザインしたプロトタイプなのだ。しかもデザイナー自身が所有しているという、ある意味大変希有な車である。ゴールドとカッパーの中間ぐらいのメタリック塗装は非常に美しいが写真で再現するのは難しい。全体のフォルムはパンテーラのそれを踏襲しつつ、ミドシップエンジンまわりのグラスエリアを大胆にとりさり、ピラーだけを残したデザインはなかなか個性的だ。手法としてはMaserati Merak(マセラティ・メラク)で用いられたものと同じだが、これはミドシップエンジンの排熱問題に対するソリューションとしての意味が大きいと思われる。デ・トマソの参加に入ったマセラティのメラクとデザイン上の差別化を図るため、ジャーダが苦心したであろうことは想像に難くないが、残念ながら市販モデルとして採用されることはなかった。しかし、パンテーラやメラクがどんどん姿を消して行く中で、素晴らしいコンディションで不老長寿の仙女のように生き続ける車と、その傍らに控えめにたたずむオーナー=デザイナーの姿を見ると、彼らが車とオーナーの幸せな関係を手にいれたことを羨ましく思わないわけにはいかなかった。
8気筒 4528cc
Carrozzeria: Ghia
f:id:mhana:20080530024110j:image:w200 f:id:mhana:20080530024109j:image:w200 No.92 Ferarri Dino 206S Competizione(フェラーリ ディノ 206S コンペティツィオーネ), 1967
あまりにも有名なPininfarina(ピニンファリーナ)の"Yellow Dino"。1967年のフランクフルトモーターショーで発表され、ピニンファリーナの代表作として永らく同社のミュージアムに展示されていたこのコンセプトモデルは、昨年米国人の映画監督James Glickenhaus(ジェームズ・グリッケンハウス)の手に渡った。この一事をもってイタリアン・カロッツェリアの雄としてカースタイリング界をリードしてきた同社の経営状況を云々するつもりはないが、一抹の不安を感じさせる出来事ではある。
6気筒 1987cc
Carrozzeria: Pininfarina
★mention of Honour
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f:id:mhana:20080530025353j:image:w150:rightNo.94 Bizzarrini P538 Manta(ビッザリーニ P538 マンタ), 1968
Bertoneから独立しItal Design(イタルデザイン)を創立したGiorgetto Giugiaro(ジョルジェット・ジュジャーロ)が、1968年のトリノモータショーで発表した同社の記念すべきデビュー作。Bizzarrini P538のレーシングシャシーにシボレーの8気筒エンジンをミッドシップ・レイアウトで搭載するこのコンセプトモデルは、スポーツカーの未来を切り拓こうとする若きデザイナー渾身の傑作である。これほどの車が一時行方不明になっていたというのだからわからないものだ。詳細は省略するが、ジュジャーロ本人でさえこの車の消息をあきらめかけていたところ、1980年代に発見され1988年のイタルデザインの20周年イベントに登場した。その後現在のオーナーにより完全なレストレーションを受け2005年のペブルビーチに出展されたということだ。
ノーズからテールに向けて一気呵成に描いたようなひとつの曲線によって構成されるサイドビューを立体的に拡張した大胆かつ斬新なフォルムは、30年を経た現在でも全く新鮮さを失わず、見る度に新たな驚きをもたらす。コバルトグリーンにコーラルレッドのアクセントという塗装は発表時のオリジナルだが、当時はこれが不評をかったため、レッド(東京モーターショー)、さらにシルバーメタリックへと再三塗り替えられた。しかし(写真で伝えるのは難しいが)イタリアの陽光の下で見るこのボディカラーは確かに派手だが悪趣味というほどではない。これほど画期的なデザインでありながら、明日どこかのメーカーが市販するといっても不思議ではないような説得力と現実味を備えているところは、ジュジャーロのコンセプトモデルに共通する特徴であると思う(2年前のVilla d'Esteにはマセラティ・ブーメランが出品されたが、あの「超未来車」ですら南仏からオーナー自身のドライブにより自走してきたのだという)。8気筒エンジンの勇ましいエクゾーストサウンドを轟かせながら、Villa d'Esteの美しい庭を駆けてくるマンタの姿は亭主が少年のころ夢見た「車の未来」そのものだった。
8気筒 5300cc
Carrozzeria: Ital Design
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f:id:mhana:20080530023535j:image:w150:rightNo.96 Lancia Stratos(ランチア ストラトス), 1970
1970年代後半のスーパーカーブームをリアルタイムで体験したことのある方なら、この車を価値を説明する必要もないだろう。名門ランチアWRCの必勝を期して開発したLanchia Stratos(ランチア ストラトス)の原型となった、ベルトーネによる1971年トリノショーのショーモデルである。ホモロゲーションのために生産されたストラトスとこの車は基本的なエクステリアデザインコンセプト以外は別物といってよいだろう。細部を見ると、わかりやすいところではテールランプのデザイン、ボンネット上のスリットなどが異なるが、それでも一時期のWRCシーンを席巻したストラトスの血脈は正にこの1台からはじまったのだ。この車の特徴は、短いホイルーベースに対して広いトレッドというずんぐりとしたシャシーに、ミッドシップレイアウトを採用することによって不要になったフロントのマスをぎりぎりまで削ぎ落としたボディを纏っていることだ。さらにキャビンもWRCドライバーのための「コクピット」として割り切ったことにより、市販車ではあり得ないようなタイトな空間にすることができ、その結果戦闘機のようなシルエットを持つに至ったこの車は、まさに「闘うために生まれてきた車」だ。Marcello Gandini(マルチェロ・ガンディーニ)の名を天下に知らしめたのは確かにCountach(カウンタック)かもしれないが、真に革新的なデザインという点で、亭主はこの作品をマエストロの代表作といいたい。発表後30年近くを経た現在でも、依然としてアグレッシヴなデザインは、マンタとともに今回のVilla d'Esteの白眉だったといってよいだろう。
6気筒 2418cc
Carrozzeria: Bertone
★CLASS WINNER