けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

CONCORSO D'ELEGANZA VILLA D'ESTE 2008 (2)

昨日の第1部に引き続き、本日はCLASS Bを紹介しよう。テーマは"KINGS OF THE ROAD - HIGH PERFORMANCE MODELS OF THE 1920s & '30s"というのだが、CLASS Aとの違いがいまいち分かりにくい。エントリーの基準がカタログに記載されていないので憶測に過ぎないが、シャシーのサイズによって振り分けているのかもしれない。

CLASS B "KINGS OF THE ROAD - HIGH PERFORMANCE MODELS OF THE 1920s & '30s"

f:id:mhana:20080506222943j:image:w200 No.18 Hispano-Suiza H6C, 1927
Van Voorenによる2ドアクーペボディを纏ったH6C。H6Cは6気筒6500ccのH6のエンジンを8000ccに拡張した高性能版で、レースにも使用された。VanVoorenのボディを持つ8000ccのHispanoは3台存在するといわれており、出品車はそのうちの1台であると思われる。フロントビューの写真しかないのでわかりづらいが、黒とアイボリーの上品なツートーン塗装が大変美しい。デザインは箱形から流線型への過渡期的なデザインだが、フロントに向かってわずかに絞り込まれたキャビンルーフのラインとボディのボトムラインが呼応し、スポーティなフォルムを実現している。2ドアクーペボディのHISPANOとして大変貴重な1台である。
6気筒 7983cc
Carrozzeria: Van Vooren
f:id:mhana:20080506223446j:image:w200 No.20 Mercedes-Benz 680S, 1928
2ドアのカブリオレボディを纏った680S。ラピスラズリを思わせるペルシアンブルーのボディと黒いフェンダーの塗装が見事。4人乗りに対応するためか、大きめの幌を備えている。No.6と同じErdmannによるボディだが、ヘッドライトの取りつけ位置やショルダーラインの高さなどが異なり、ずいぶん違った雰囲気になっている。
6気筒 6800cc
Carrozzeria: Erdmann & Rossi
f:id:mhana:20080506223640j:image:w200 No.22 SS Cars Ltd. SS90, 1935
SS(スワロー・サイドカー・アンド・コーチビルディング・カンパニーが社名を変更し、1934年にSS Cars Ltd.となった)といえばJaguar SS100が有名だが、これはその前身となったSS90の生産第1号車として登録された車だという。この時点ではまだJaguarの名は冠されていない。SS90は僅か23台が生産されたのみでJaguar SS100にとってかわられたため、その生産期間は1年にも満たない。現存するものが極めて少なく、亭主はもちろん初めて見たが、SS100との違いは浅学にしてよくわからなかった。なお、SS Cars Ltd.は第2次世界大戦後、ナチス親衛隊を連想させるということからJaguarに社名を変更した。
6気筒 2663cc
Carozzeria: SS Cars Ltd.
f:id:mhana:20080506224533j:image:w200 No.24 Bugatti T57, 1936
BugattiT57は多くのカロッツェリアがボディを手がけており様々なモデルが存在する。この出品車は、スイスのGraberが製作した大変エレガントな流線型ボディを持つ。ほぼ完全にオリジナルなコンディションにレストアされているという。デザイン上の特徴は、フルカバーのリアフェンダーから滑らかにつながるリアエンドの曲面と、ボディサイドの特徴的なアクセントラインだろう。1930年代後半の流行デザインの典型を見ることができる。走行中のブレブレ写真しかないことをご容赦いただきたい。
8気筒 3257cc
Carrozzeria: Graber
f:id:mhana:20080506224837j:image:w100 No.26 Mercedes-Benz 320, 1937
メーカー製カブリオレ・ボディ(CabrioletA)の320。フェンダーに特徴的なプレスラインがはいっており、なかなかお洒落である。直列6気筒エンジンはこのボディを130km/hまで引っ張るという。遠景の写真しかないが、こうやって走っている様子はいかにも楽しげだ。
6気筒 3208cc
Carrozzeria: Mercedes-Benz
f:id:mhana:20080506214349j:image:w200
f:id:mhana:20080506225124j:image:w200
No.30 Delahaye 135M, 1937
3台だけ現存する標準ホイールベース・シャシーの135Mの1台。Figoniの手になる素晴らしい流線型ボディを与えられたこの車は、インドのマハラジャMorvi Jahの注文により製作され、1986年まで彼の地にあったという。その後英国で最初のレストレーションを受けた後フロリダのコレクターに引き取られ、現在はPeter Mullinが所用している。これまでも数々のコンクールで受賞の実績があり、今回もmention of Honourに輝いた。現存するDelahayeの中でも最も流麗かつエレガントなデザインの2座クーペであるといってよいだろう。ヘッドランプを埋め込んだフルカバーのフロントフェンダーの曲面は一切の破綻をみせることなくボディにつながっており、リアフェンダーからテールエンドまで見事なラインの統一がなされている。しかもどの角度から見てもぎこちなさがないのには驚く他はない。決して誇張ではなく1時間眺めていても飽きない。眼福とはまさにこのことであろう。No.24のBugattiとのデザイン上の共通点に注目されたい。
6気筒 3557cc
Carrozzeria: Figoni & Falaschi
★mention of Honour
f:id:mhana:20080506225539j:image:w200
f:id:mhana:20080506225538j:image:w200
No.32 Alfa Romeo 6C 2500SS, 1940
Pinin Farinaによるモダンなボディを持つ初期型の6C 2500SS。随所にアール・デコ的な意匠が用いられ、マシンエイジの到来を感じさせる。お馴染みの盾型ラジエターグリルは用いられず、空力特性の向上を意識したデザインになっている点でも非常に貴重である。当時のオーナーは、この車を駆って頻繁にヒルクライムに参加していたという。No.30のDelahayeとは対照的にマッシヴな印象を持ったデザインで、このように異なるテイストのデザインが共存していたことは大変興味深い。
6気筒 2443cc
Carrozzeria: Pinin Farina
★CLASS WINNER

CLASS C "STREAM LINED - STYLE AND SPEED-"

f:id:mhana:20080506225839j:image:w200
f:id:mhana:20080506225840j:image:w200
No.36 Alfa Romeo 6C 2300 Jankovits, 1935
f:id:mhana:20080506225838j:image:w100:right今回のVILLA D'ESTEで最も注目を集めた一台。見るからに「あやしい」ボディは、Jankovits兄弟によるミッドシップレイアウトのワンオフ(1台限り)で、ドライバーは横三座の中央に座る。実はこのレイアウト、後述するイタルデザインの"MANTA"と同じである。一見異形ともいえる外観だが、当時の空力デザインの一つの帰結であったことは想像に難くない。また、フロントエンドの意匠はアール・デコの薫りを漂わせており、色々と味わい深い。No.32のAlfaと相通じるデザイン・テイストがうかがえる。技術面だけでなく造形面からも資料的価値の高い車だと思う。ただ、残念ながらレストレーションの状態が良好とは言えず、特にエンジンルームと塗装には難がある。カタログに載っている写真は、薄いブルーのメタリック塗装のように見えるが、出品された状態は国籍不明のダークグリーンがベタッと塗られており、何でこのような色になったのか理解に苦しむ声が多く聞かれた。
6気筒 2309cc
Carrozzeria: Jankovits
f:id:mhana:20080506230209j:image:w200
f:id:mhana:20080506230210j:image:w200
No.38 Bugatti T57SC Atalante, 1937
極めて貴重なGangloffによるボディを纏ったT57SC。まさにストリームラインの申し子のような流麗な2座クーペボディは、今なお鮮烈なインパクトを見る者に与える。翼をひろげたようなフロントフェンダーの造形、フロントに比べて極端に狭いリアトレッドと絞り込まれたテールが作り出すフォルムは、3.3リッター8気筒エンジンという強靱な筋肉で羽ばたきながら地表すれすれを滑空する猛禽を思わせる。そうしたパワフルなイメージと、ボンネットまわりのエレガントな意匠が高い次元で調和しており、この時代の最も先進的なスーパースポーツカーの姿を伺い知ることができる。
8気筒 3257cc
Carrozzeria: Gangloff
★mention of Honour
f:id:mhana:20080506230626j:image:w200 No.42 Alfa Romeo 6C 2300B Pescara, 1937
Pinin Farinaにより製作されたエアロダイナミック・ボディのワンオフ・モデル。数多く制作された6Cのボディの中でも一際異彩を放っている逸品である。1937年のConcorso d'Eleganza Turinに出品され1位を獲得し、同年のパリ自動車ショーで公開された。Alfaの盾型グリルを使わず、フロントウインドウからグリル下端までをクロームのストライプで一気につなげるというユニークな手法は、当時の最先端のデザイン・センスが可能にしたものであろう。また写真では判りにくいが、ボンネット側面の放熱スリットまわりに直線と円環をもちいたクローム装飾が施されている。全体としてはストリームラインとアール・デコの見事な融合であり、美術史からみても重要性の高い作品といえよう。
6気筒 2309cc
Carrozzeria: Pinin Farina
f:id:mhana:20080506230918j:image:w200
f:id:mhana:20080506230917j:image:w200
f:id:mhana:20080506230919j:image:w150:rightNo.44 Mercedes-Benz 540K Autobahnkurier Coupe, 1938
今回の最優秀賞(Coppa d'Oro Villa d'Este、招待者の投票によって決まる)に輝いた車。Mercedesによって2台だけ製作された特別仕様車のうちの1台で、現存する唯一のものである。この車を所有したオーナーは現在までに僅か2人といわれており、それが事実ならこの年代の車としては異例のことである。5400ccの巨大な8気筒エンジンを納めるノーズは長大で、それに対してキャビンは思い切って圧縮されている。コンポーネンツを一つずつ取り上げれば、Bugatti T57SC Atalanteと共通する部分も少なからずあるが、全体のイメージは遙かにマッシブであり、ある種の獰猛さすら感じさせる。非常に希少な車であることは間違いないが、Concorso d'Eleganzaの優勝車としてはどうだろうか?
8気筒 5401cc
Crrozzeria: Mercedes-Benz
★CLASS WINNER
★Coppa d'Oro Villa d'Este