けろこ堂日乗(β版)

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ショコラティエの勲章

著者の上田早夕里は小松左京賞受賞のSF作家だが、この作品は(敢えて分類すれば)ミステリイだ。
神戸の老舗和菓子店に勤める主人公の女性と、名人ショコラティエの交流を軸に6編の物語が綴られている。ミステリとはいっても、殺人事件もなければ驚くようなトリックもない。菓子づくりという我々があまり知らない世界の日常が舞台であり、そこで起きる小さな事件の話である。モノローグの語り口は淡々としているが、どこか凛としたすがすがしさを感じさせるもので、亭主は大いに気に入った。
さらに特筆すべきは、全編にちりばめられたお菓子の描写の見事さだろう。見た目の描写はもちろん、味の描写、製法の説明など読んでいるだけで食べたくなる。それでいて、よくある「おい●んぼう」的な表現は徹底的に廃されていて、グルメ記事を読むような退屈さとは無縁だ。著者はこの作品のために一体どういう取材を行ったのか、大変興味深い。
ショコラティエという題名から想像の通り、甘くておいしいだけでなく、ちょっとほろ苦い読後感がとても心地よい作品である。

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)

ラ・パティスリー

ラ・パティスリー