けろこ堂日乗(β版)

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はやぶさ−不死身の探査機と宇宙研の物語

もうかなり前に読んだ本だが、書こうと思いつつ機会を逸していた。
はやぶさ」とは、JAXA/ISAS小惑星イトカワに送り込んだ探査機MUSES-Cのことであることは言うまでもない。この探査機についてはすでに多くの文献やサイトが詳細な情報を提供しているので、ここで改めて書く必要はないだろう。
2005年11月20日、「はやぶさ」は地球から3億キロの彼方にある長径500m足らずの小惑星イトカワにタッチダウンした。しかし、その後「はやぶさ」はトラブルに見舞われ、同年12月8日ついに連絡を絶ってしまう。もはや地球への帰還は絶望かと思われたが、2006年1月28日、長野県臼田地上局のアンテナが「はやぶさ」からの微かな信号を捉えた。
はやぶさ」は生きていた。そして、2010年6月の地球帰還及び再突入カプセルによるサンプルリターンへ向けて、今も地球を目指して飛び続けている。それ故、「はやぶさ」は”不死身の探査機”と呼ばれる。
亭主にとって、タッチダウンのニュースはアポロ11号以来の大事件だった(もっともまわりの人は誰も同意してくれなかったが)。その「はやぶさ」が消息を絶った時のショック。そして復活の一報に接したとき、亭主は不覚にも涙を流した。
本書は「はやぶさ」に関する情報よりも、このユニークな探査機を実現した「宇宙研」が、いかにして誕生し、何を成し遂げてきたのかに注目している点が面白い。日本の宇宙開発には、故糸川教授が立ち上げた東大宇宙研と、科技庁系の宇宙開発事業団があったことは思いの外知られていないが、この両組織の性格は大きく異なる。
筆者は「宇宙研」を独創的な技術開発集団として高く評価しているが、これは未だ手つかずの「日本の宇宙開発史」という分野に一石を投じるものといえるかもしれない。ただし、筆者の意図ではあろうが、あくまでもエピソードに重きを置いた読み物であるから、読んでいて楽しいし感動する反面、技術史としてはいささか冷静さを欠いているのは、しかたのないことだろう。別の形で技術史として書いてみたら、それもまた非常に興味深いものではないかと思う。
この宇宙研の元メンバーを招いて行われた「ロケットまつりロフトプラスワン」の対談集である「昭和のロケット屋さん」は、全巻超レアネタのオンパレードで、読んでいて笑ったり感心したりあきれたりと実に面白い。そして技術の黎明期に居合わせた人々の知恵と奮闘に感動せざるを得ない。こうした生々しい体験をメディアが記録できたことは誠に貴重なことだと思うが、これをただの面白いエピソードや懐古的な蘊蓄話にとどめるのではなく、日本の宇宙開発の未来を作るために活かそうという編者ら(松浦晋也笹本祐一他)の意図には大いに賛同する。亭主もまた、自分の税金でロケットを打ち上げる以上、面白いこと、凄いことをやってほしいと願う一人である。

はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)

はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)

昭和のロケット屋さん (Talking Loftシリーズ)

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