けろこ堂日乗(β版)

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勇将の装い

黒澤明監督による「影武者」を初めて観た時、あまりにもカッコいいデザインの甲冑が登場して、驚かされたものだ。特に作中で信長が所用していた、西洋甲冑をベースにしつらえたと思われる南蛮具足の印象は強烈で、亭主が甲冑のデザインについて興味を持ち始めた直接のきっかけになった。
「影武者」に続く「乱」は、日本では意外なほど評価が低いが、この作品でワダミエがみせた戦国時代の武家装束に関する卓抜した解釈も、驚くべきものだ。いわゆるジャポニズム的な幻影を見事に打ち砕き、日本の服飾史の研究に根ざした説得力を持ちながらも、きわめてクールな造形を成し遂げたものといえよう。
これら黒澤作品の舞台となった安土桃山時代は、日本のデザインの成立を考える上で、極めて重要な位置を占める。特に、各地で覇を競い合った戦国大名の戦装束は、敵を威嚇するだけでなく、自軍を振るいたたせるようなインスパイアリングなものであることが求められた故に、強烈な個性を放つ魅力的なデザインが多数産み出された。
長崎巌の「勇将の装い」は、こうした戦国武将の甲冑や装束における卓越したデザインを高品質な写真入りで集大成した快著だ。今まで美術雑誌などの特集記事で断片的に紹介されることを除けば、到底手がでないような豪華本でしか見ることができなかった高品位の写真を、気軽に入手できる写真資料として刊行した快挙に拍手を送りたい。
蛇足ながら、この本は、アニメや特撮のデザイナーには必携の一冊だと言っておこう。
なお、同じ著者による「小袖」も、女性の日常着を素材に表現されたデザインのダイナミズムを系統的に紹介した好著だ。この本を見ると、自分が抱いている「和」のイメージが、いかに矮小な知識に制約されているかを実感せずにはおられない。

勇将の装い―戦国の美意識 甲冑・陣羽織

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小袖 (Fashion Design)

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影武者<普及版> [DVD]

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乱 [DVD]

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