けろこ堂日乗(β版)

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神の守り人

またも上橋菜穂子である。まぁ、好きなんだから仕方がない。
待望の軽装版「神の守り人」が発売された。買ったとたんに読んでしまったが、改めて上橋の実力を思い知らされた。
主人公であるバルサが背負う宿命、もう一人の主人公であるアスラが背負う宿命、そのどちらもが人の命に対する避けることができない選択を伴っている。筆者の登場人物に対するプレッシャーのかけ方は、ほとんど容赦がないと言っても良い程だ。そして、それは読者に対しても等しく、直面を強いるものだ。
後書きによれば、上橋は「刀を抜いて、刀を納める物語」を書きたかった、と述べているが、この作品には確かにそういう言い方がふさわしい。別の言い方をすれば「自分の行動に責任をとること」とは何か、を探究する物語だ。
亭主にしてみると、こんな厳しい話に若い人がついてこられるのだろうか、と思ってしまうのだが、これだけ支持されているところをみると、彼らなりの読み方、感じ方で消化できるものなのだろう。
ずいぶん前のことなので誤っているかも知れないが、「物語がファンタジーとして成立するためには、倫理観を備えていなければならない」というようなことを、富野由悠季が言っていたことを思い出す。これはなかなかに名言だと思う。
上橋作品には、確かに倫理観がある。それは決して押しつけがましいものではないが、かといって弱々しいものではないと思う。人は、命は、かくあってほしい、という上橋の強い想いが感じられる。それが作品の魅力の一つだと亭主は考えている。
惜しむらくは、自分がもっと若いときにこの作品を読みたかった、と思うのだが、それは亭主と同世代の上橋自身も同じではないか。「ユリイカ」に掲載されていた上橋と荻原(規子)の対談を読んで、そういう想いを新たにした。

神の守り人〈上〉来訪編 (軽装版偕成社ポッシュ)

神の守り人〈上〉来訪編 (軽装版偕成社ポッシュ)

神の守り人〈下〉帰還編 (軽装版偕成社ポッシュ)

神の守り人〈下〉帰還編 (軽装版偕成社ポッシュ)

ユリイカ 2007年6月号 特集=上橋菜穂子 〈守り人〉がひらく世界

ユリイカ 2007年6月号 特集=上橋菜穂子 〈守り人〉がひらく世界