けろこ堂日乗(β版)

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獣の奏者

この上橋菜穂子のファンタジーが何やらのランキングで1位になったようだ。結構なことだ。いわゆる幻獣、神獣の類はファンタジーにかかせないが、その生態を物語の中核に据えた作品はそれほど多くないと思う。「獣の奏者」はそういう希有な作品だ。
闘蛇という巨大な水蛇を戦闘用に飼育するすることを生業とする母に育てられた少女。少女は並外れた聴覚と一度聴いた音楽を寸分違わず再現する能力を持っていた。この少女が、非情な運命により母を失い、天涯孤独の身になるところから、この物語は始まる。
タイトルにある「獣」とは王獣という翼を持った巨大な狼のような動物で、気高く決して人に馴れることはない、といわれている。少女が傷ついた王獣の子どもと出会うことから、物語は王国全体を巻き込む大動乱へと展開する。
この物語は、よくある少女と動物の心温まる交流を描いただけのものではない。野生と人間の相克が生み出す非情さを正面から描いた作品だ。王獣という生物がいかに「あり得ない」生き物であろうとも、そいう突っ込みが空しく感じるほどの力強さが漲った傑作であると思う。
この手のテーマに弱い亭主としては後半は泣きっぱなしという有様だったが、ライトなファンタジーが乱発される最近の時勢にあって、久しぶりに魂を揺さぶられる想いがした。
口さがない批評家は「野生のエルザ」の焼き直しだ、というかも知れないが、耳を貸す必要もないだろう。このような作品を書く同世代の作家がいることに感謝したい。
ところで、アニメ版「精霊の守り人」も無事最終回を迎え、あとは、他の守り人・旅人シリーズの文庫版、軽装版の発刊を待つばかりだ。アニメは、放送回数の関係か原作にないエピソードが加わった上、ヨゴの国の民俗も無理にジャパナイズされた感があり不自然さが拭いきれなかったが、別作品だと思えばそれほど悪い出来ではなかった。また、作画のレベルが高く、バルサの短槍術の描写は、中国拳法(おそらく長拳系)の動きを参考にしたと思われ、非常に良くかけていた。ただ、願わくばこのスタッフで原作に忠実な劇場用作品を新たに製作してほしい。

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 I 闘蛇編

獣の奏者 II 王獣編

獣の奏者 II 王獣編