けろこ堂日乗(β版)

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精霊の守り人

上橋菜穂子という作家を亭主は最近まで知らなかった。この不明には恥じ入るばかりだが、荻原規子と双璧をなす日本ファンタジー界のエースが、荻原と同じく亭主とほぼ同年代だという。
この作品は児童文学として数多くの賞を受賞し、外伝を含めて10冊が刊行され、ついに今春からアニメ作品も放映されている。まさに日本人作家によるファンタジーの代表的作品だが、亭主が見逃していたのは、不勉強もさることながら、このシリーズが児童書のコーナーにのみ存在していたことが大きい。亭主に子供がいたなら、もっと早く気がついていたと思うのだが。遅きに失した感はあるが、今回の文庫化で巡り会うことができたことを喜ぶべきだろう。
上橋はアボリジニの研究にたずさわる現役の準教授であるが、この作品にはその専門的知識が活かされていると感じさせる面が確かにある。国家の成立過程と神話の関係、征服民と被征服民の確執、世代とともに変化する世界観といったマクロな視点ががっちりと構築されている点では、世界的な水準でみても抜きんでていると思う。
しかし、何よりも圧倒されるのは非常に丁寧で手抜きのない物語としての存在感だ。それは樹齢を重ねた古木を思わせる重厚な手応えであり、張りぼてではあり得ないみっしりとした質感だ。上橋はあとがきで「私は『子どものためだけに』ものがたりを書いたことはありません。」と述べているように、この作品を子どもが読んでも大人が読んでも楽しめる作品にしたかったのだという。その意気がこの作品に見事に結晶したという他はない。
惜しむらくは文庫化が始まったばかりということ。分厚くてでかい(でも素晴らしい装丁の)本装版を一気買いする価値は十分にあるが、置き場所が問題という向きには順次刊行される文庫を首を長くして待つしかなさそうだ。

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (軽装版偕成社ポッシュ)

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精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

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