けろこ堂日乗(β版)

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走れメロス

もう1ヶ月以上たってしまったが、森見登美彦の最新刊は、近代文学のリミックスである。

もっとも「小説NON」に連載された作品を収録したものなので、本書が出る前にすでに読んでいた人も多いだろう。<
山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」という名作を、例によって京都を舞台に怪しい学生が主役の物語にしたてている。亭主は、ここにあげた原作ですら読んでいないものがあるほどの日本文学無知であるが、それでも十分に楽しめた。が、やはり原作を読んだことがあるに越したことはない。表題作の「メロス」は森見の本領発揮というべき暴走ぶりだが、それでも原作のツボをちゃんと押さえて、それを見事にひねってしまう力量には恐れ入る。抱腹絶倒の傑作だ。
亭主がこの本を手に取ったのは、特に「山月記」が入っていたからである。原作は教科書に載っていたのが初見であったと思うが、それ以降何回か読み返した数少ない近代文学作品である。森見はこれをとんでもないネタでリミックスしているのだが、原作におけるキヤッチーな文章がちゃんとそれとわかるように使われていて、感心してしまう。
ネタとしては、どの作品も「原作を辱めている」といわれかねないのに、読んでみるとそういう風には全く感じられないところが大変爽やかでよい。これは森見の原作を尊重する姿勢の産物なのだと思う。久しぶりに楽しい本を読んだ。
なお、前回森見作品をとりあげた時には読んでいなかった「きつねのはなし」も読んだ。こちらは、もろに亭主の趣味にはまった作品だが、万人向けとは言い難い。いわゆる「奇譚」なのだが、リアルワールドをほんの少しだけ「ずらす」ことによって生じる「怖さ」を楽しむ向きにはお薦めである。

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

きつねのはなし

きつねのはなし