けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

アンビエント・ファインダビリティ

著者のPeter Morvilleは、WEBサイトの情報アーキテクチャについての著作が有名であるが、この本は彼の発想の基本を綴ったものである。技術書ではないし、学術書とも違うので、エッセーと呼ぶしかないだろう。
興味深いのは著者のバックグラウンドがライブラリアンであるということだ。図書館情報学では、膨大な書誌情報をいかに論理的に分類し、検索できるようにするか、ひとことで言えばInformation Retrievalが重要なテーマになる。ここで言うRetrievalがSearchではないことに注意して欲しい。私の勝手な解釈では、Retrievalは情報検索の体系的手法であり、Searchは具体的な手段を意味する。昨今、Googleの世界制覇(?)により「検索=ぐぐる」になってしまった感が強いが、Information Retrievalの観点からすれば、Googleで全てが片付くことなどあり得ない。
著者はGoogleの威力を肯定しつつも、それがすべてでないことをInformation Retrievalの歴史的過程や他分野の研究成果に基づいて丁寧に明らかにし、Web2.0時代におけるInformation Retrievalの論点を提示している。特に、都市空間の認知に関する先駆的研究であるケヴィン・リンチの「都市のイメージ」をとりあげ、そのアプローチがWebにおける情報のFindabilityを考える上での意味を指摘している点は注目に値する。
タイトルの「アンビエント」はもちろん、ブライアン・イーノアンビエント・ミュージック」にインスパイアされたからであるが、ライブラリアンならではの幅広いパースペクティヴを感じさせるものであって、いわゆる「Geek」な語り口とは一線を画していると感じられた。巷に溢れるWeb2.0本に胡散臭さを感じるならまず本書の一読をお薦めする。ただし、Webテクノロジに関するある程度の知識を必要とするのでご承知置き願いたい。

アンビエント・ファインダビリティ ―ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅

アンビエント・ファインダビリティ ―ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅

Web情報アーキテクチャ―最適なサイト構築のための論理的アプローチ

Web情報アーキテクチャ―最適なサイト構築のための論理的アプローチ