けろこ堂日乗(β版)

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渋滞学

ここのところ読書ペースが落ちてしまい、この日乗も月1以下になってしまった。これでは月乗である。たまに訪れていただく方には申し訳なく思う。
本を読んでいないわけではないのだが、紹介したいと思うものが少ないということだ。
2007年の最初の1冊は「渋滞学」である。著者は物理学が専門だが、最近はもっぱら「自己駆動粒子」のシミュレーション・モデルを通じて様々な渋滞現象の解明に取り組んでいるという。昨年入手していたのだが、ずっと積んであった(笑)。
結論から言えば、この本は面白い。最近読んだ科学系の一般書ではベスト5に入る。
高速道路で工事も事故もないのになぜ渋滞が起こるのか。筆者はこの問題を「自己駆動粒子」を使って見事にモデル化している。その明解な理論には誰しもうなずきたくなるに違いない。
ただ、亭主がこの本に感じる面白さはそれだけではない。その面白さは極めて個人的な理由なのだ。
この本に紹介されているASEPモデルというセルオートマトンは、亭主が学部時代に学んでいた理論の発展型に他ならないのである。詳しいことは本書を読んでいただくしかないが、ASEPモデルが発表されたのは1968年、イスラエルの数理生物学者によるそうだ。その後ほとんど注目されていなかったこのモデルが、1993年フランスの数学者デリダ(哲学者ではない)により解法が発見され、「可解確率過程」であることが証明されたのだ。「可解確率過程」とは「確率過程モデルにおいて長時間経過した時点の状態が正確に解ける」ということで、これは実は大変すごいことなのだ。
亭主たちの研究では、2次元セルオートマトンの振る舞いは、確率過程として分析できるが、そのためにはシミュレーションを繰り返すしかないというところに落ち着いていた。文系学部生の力ではこのあたりが限界だろう。本書で紹介されているASEPモデルは1次元セルオートマトンだが、それでも数学的に「解ける」というのは驚きである。1993年といえばちょうど亭主がこの手のテーマから最も離れていた時期。もし知っていれば、大変な衝撃と興奮を体験できたに違いないが惜しいことをした。
そんなわけで、本書の内容に亭主は格段の思い入れがある。もちろん、セルオートマトンに興味のない人にも大変面白い読み物であることは確かである。

渋滞学 (新潮選書)

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自然と遊戯―偶然を支配する自然法則

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