けろこ堂日乗(β版)

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ブンダーカマーの快楽

先週、京都の某学会の特別企画で、荒俣宏の講演を聴いた。内容はブンダーカマーの荒俣流解釈をメインに、化け物と博物学との関係や、化け物輸出国としての日本についてといった実に興味深いものだった。
決して失礼な意味ではないが、生「アラマタ」は凄い。体も大きいが、何というか情報量が重力場に影響しているんじゃないかと思いたくなるような、異様な存在感である。一般には「帝都物語」の著者としては知られていようが、博物学の歴史に関する氏の貢献はあまり知られていないのではなかろうか。
ブンダーカマーとはドイツ語を直訳すれば「驚異の部屋」ということだが、早い話が博物学的「珍宝館」だ。近代まで博物学は、得体の知れないもの、なんだか分類のしようのないものを、取り敢えず化け物として分類していたと言うことができる。そのような化け物を集めた怪しい展示室がブンダーカマーなのである。
今回の講演で面白かったのは、人魚のミイラの話。氏が「ムンクの叫びタイプ」と呼ぶ、ギャァと悲鳴をあげたままミイラになったような人魚(もちろんニセモノ)をご存じの方も多いだろう。氏によれば、あの人魚は江戸時代にかなり大量に製作されたのだという。その証拠に現在でも日本各地に似たようなものが結構残っている。さらにそのうちのいくつかは、出島を通じてヨーロッパに持ち帰られ、見せ物としてちょっとしたブームを巻き起こしたのだそうだ。現存するそれは、ネコやサルの頭を魚の剥製に継ぎ足したような代物で、誰が見てもインチキだが、当時これを鑑定した学者はどういうわけか本物であると、太鼓判を押してしまったらしい。そして、ここが面白いところなのだが、博物学者にして蒐集家であったシーボルトも、きっと日本でこの人魚を入手したに違いない、と氏は考えたのである。そしてライデンに残るシーボルトの史料を調べた結果、彼が人魚を入手していた、という記載を発見したのだという。事実であるとすれば、日本は化け物輸出国として名を馳せていたということになる。
平成の今も、日本は様々な化け物を輸出し続け、ポケモンにいたっては世界を席捲してしまった感がある。これを日本の産業だ、とか盛り上がるのは日経や経産省のおリコウ役人にまかしておくとして、なぜ日本人は化け物を創作し続けることができるのか、というのはちょっと面白いテーマである。これについては、また機会をあらためて考えてみたい。

アラマタ珍奇館―ヴンダーカマーの快楽

アラマタ珍奇館―ヴンダーカマーの快楽