けろこ堂日乗(β版)

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極北の動物誌

今は亡き星野道夫が自らの原点と語った本である。著者はウィリアム・プルーイット。かつてアラスカに核実験場を作ろうとする計画が持ち上がった時、それがタイガの生態系に及ぼす影響を調査し、計画の中止を求める報告書を上申したことが原因で大学を追われた人物である。結果的には計画は中止になり、プルーイットの報告の正しさは認められたが、その名誉が正式に回復されるまでには、実に20年以上の歳月がかかったという。
本書は、フィールド・バイオロジストである著者が、その五感で身体で観察してきた極北のタイガに生息する動物たちの生態を物語風に書きつづったものだ。その文章は冷静な観察によって裏打ちされ、それでいて極北のいきもの達への愛情に満ちあふれている。
この本を読んで、亭主はタイガの生態について全く無知であったということを痛感した。同時に星野道夫の美しい作品の背景にある自然の厳格さ、そしてその厳格であるが故の脆さを少しだけ理解できた。
この本を読んでしまったら、トウヒの林立するタイガの森林地帯に足を踏み入れたい、という願望を抑え続けるのは難しい。若き日の星野が矢も立てもたまらずにアラスカへ旅立ったのは無理からぬことであると思う。それほど美しく、厳しく、愛情に溢れた本だ。
「これはカリブーによってふたたび語られたリョコウバトの物語である。これはグリズリーによってふたたび語られたヒースヘンの物語である。・・・(中略)・・・なぜ、なぜわれわれは学ばないのか」(同書p184より)
この本が書かれたのは1967年、実に40年前のことだ。その40年間にわれわれは何を学んだのか。

タイガ生物学研究所のHP
http://www.wilds.mb.ca/taiga/

極北の動物誌

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ノーザンライツ (新潮文庫)

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