けろこ堂日乗(β版)

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海底牧場

大学3年のゼミ説明会の時だ。説明を終えた教授が「質問はないか」と尋ねた。ある学生が「先生の宗教観は?」ときいた。教授はすぐに「特定の宗教を信心しているということはありません。まぁ、強いて言えばアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』のような超越的存在はあってもよいと思ってますが。」と答えた。これをきいて亭主は、そのゼミに入ることを決めた。1970年代末といえども、大学の経済学の教授が学生の面前で「SF」の事を口にすることは、極めて珍しいことだった。いささか大袈裟だが、人生の転機だったと言えなくもない。
その後も沢山のSFを読んだが、「幼年期の終わり」をはじめ、10代後半から20代の前半までに読んだ作品は忘れがたいものばかりだ。ちょうどそのころは世界中がSFブームで、古典的作品からサイバーパンクまで、ありとあらゆるSFが毎月続々と出版されていた黄金時代なのだ。亭主の頭の中では、アーサー・C・クラークは、その黄金時代を代表する名前になっている。
そんなクラークの作品だが、信じられないことに、つい最近まで新刊で入手できる作品は数冊しかない、という状態が続いていた。これはいくらなんでもヒドイと思っていたら、最近になってハヤカワから復刊の兆しが出てきた。「太陽からの風」、「乾きの海」、「楽園の泉」等がやっと手に入るようになった。「海底牧場」もその一冊だ。亭主の勝手な分類では、「海底牧場」は「楽園の泉」と同じカテゴリーの作品になっている。というか、「楽園の泉」は海底というフロンティアを衛星軌道に置き換えた「海底牧場」の本歌取り的作品のように思えてならない。明確な論拠があるわけではないので、追求はご容赦願いたいが。
未知のフロンティアに限られた技術で果敢に挑む人間のドラマは、今でこそ「プロ○○○トX」などでお馴染みになったが、半世紀前にそのすべてのプロトタイプを作り上げてしまったのはクラークである。クラークの未来観は、あまりに楽観的だとか、科学万能主義的だといった批判を目にすることがあるが、それは適切ではないように思う。クラークの作品の底辺には共通して「善なるもの」への信頼と希望がある。だからこそ半世紀の時を経てもなお魅力を失わないのだと亭主は考えている。
それにしても、肝心の「地球幼年期の終わり」は未だ絶版状態である。なんとかならないものだろうか・・・
補随:先日書店で早川の「幼年期の終わり」を確認した。創元もニーブン&パーネルの「神の目の小さな塵」を再刊させたし、ここのところ少し名作復刻の兆しが見えるのは結構なことだ。

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

銀河帝国の崩壊 (創元SF文庫 (611-1))

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