けろこ堂日乗(β版)

けろこ堂日乗のHatenaブログ版です。

剱岳-点の記-

この本のサブタイトルを見てピンときたら、あなたは地図マニアだ。
新田次郎の手になるこの作品は、山岳小説の傑作であるとともに、非常に珍しい地形測量をテーマにした小説でもある。サブタイトルの「点の記」とは、三角点を設置する際に作成される記録のことだ。(三角点は地形図を作成する際に、測量の基準とするために設置する標石。)
この小説は、明治末期、本土に残された数少ない未踏峰のひとつである越中剱岳に、三角点を設置するために初登頂に成功した測量官、柴崎芳太郎の物語である。新田次郎は、本職が気象庁の技師であったことは有名だが、本書からは新田が科学と自然の関係をどのように捉え、またどのような関係を築きたいと考えていたのかを伺い知ることができる。
あまり知られていないことだが、三角点を設置するという作業は非常に地味で、気が遠くなるような忍耐を必要とする。そしてその作業の基本は21世紀の現在でも、この小説とさして変わらない。

国土地理院のWEBサイト(http://sokuservice1.gsi.go.jp/index.html)から、基準点を検索することができるので、興味があったら一度閲覧することをお薦めする(ユーザ登録が必要)。点の記はもちろん今でも謄本が入手可能だ。
日本国内の三角点は現在GPS三角点への移行が進んでいるが、世界にはまだ測量の及んでいない場所がたくさんある。この瞬間にも、測量器を背負った技師達が未踏の大地で奮闘しているのだ。
追伸:本作品が映画化される。この地味で長い内容を映像化するためには、相当の脚色が行われることは避けられないだろうが、映画として良く仕上がれば文句を言う筋合いではない。
地理離れが叫ばれて久しいが、地理学会もGIS学会もこういう映画を後援するくらいのことを考えて欲しいものだ。映画の公式サイトには、国土地理院へのリンクすらないのだ。