ペトロス伯父と「ゴールドバッハ予想」
この本は実話ではない。しかし、「ゴールドバッハの予想」は実在する数学の問題で、予想が提示されてから約250年間たった今日でもまだ証明されていない。
「2より大きい偶数は2つの素数の和である」
これが「ゴールドバッハの予想」だ。この問題は数学の中でも「数論」と呼ばれる分野に属し、かの「フェルマーの最終定理」(証明されたので「予想」ではなくなった)などに並ぶ難問のひとつである。
この作品は、非凡な才能を持ちながら、歴史的な難問のために学者としての人生を棒にふってしまったペトロス伯父と「わたし」の数学を巡る物語だ。今世紀の偉大な数学者も実名で登場するが、フィクションの部分もちゃんと数学の理論と歴史的背景を踏まえて書かれている。それもそのはずで、著者はパリの高等学院(EPHE)で数学を学んだ経歴を持つ。淡々とした語り口ではあるが、「ゴールドバッハの予想」と伯父の関係が徐々に明らかになる過程は、ミステリーのような緊張感があり、ラストまで飽きさせない。小品ではあるが、美しく悲しい物語である。
ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
- 作者: アポストロスドキアディス,Apostolos Doxiadis,酒井武志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/03
- メディア: 単行本
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